2019年度インターハイベスト4、選手権出場、プリンスリーグ関西準優勝。
創部から7年でインターハイ全国大会への出場を果たし、2012年度には選手権全国大会準優勝の実績を残す。
京都の強豪として全国にその名を馳せる京都橘高校は、「日本で初めてユニフォームにスポンサー名を入れた高校」としても知られています。
その同校が新たにホームページを活用してスポンサーを募る取り組みを始めるといいます。
2001年の創部から監督を務め、京都橘高校サッカー部を全国レベルにまで押し上げた名将、米澤一成監督にこの取り組みの真意と決意を伺いました。
(電話取材・文:CRANE /画像提供・引用:京都橘高校サッカー部 米澤一成監督、京都橘高校facebook)
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京都橘高校 米澤一成監督インタビュー
プロフィール
1974年4月30日生まれ、京都府出身。
京都府立東稜高校、日本体育大学卒業。
東京の世田谷学園、三重の近畿大学工業高等専門学校のサッカー部監督を経て、2001年に創部された京都橘高校サッカー部の監督に就任。
創部から7年の2007年、全国高校総体(佐賀インターハイ)初出場。2008年、選手権全国大会初出場。
現在プロで活躍する岩崎悠人(湘南ベルマーレ)や仙頭啓矢(横浜F・マリノス)、小屋松知哉(サガン鳥栖)、中野克哉(京都サンガ)を擁した2012年度 第91回高校サッカー選手権では、同校初となる決勝に進出し、準優勝を果たす。
2013年度の参入戦で勝利し、2014年度、2015年度はプレミアリーグWESTで戦った。
2019年度のインターハイでもベスト4の実績を残すなど、京都橘高校サッカー部に全国レベルの強豪校としての歴史を刻み続けている。
京都府国体少年男子のコーチや監督、日本高校サッカー選抜のコーチ経験を持つ。
高校サッカー部がスポンサーを募る
「更なる自律と成長を目指して」
---京都橘高校は高校サッカー部として日本で初めてスポンサー名が入ったユニフォームを着用したと伺っています。
米澤監督
そうなんです。インターハイや選手権など、高体連が主催する大会ではスポンサー名が入ったユニフォームは認められていないのですが、J下部チームや強豪クラブチームも出場するプレミア、プリンス、都道府県リーグといったサッカー協会主催の大会では着用することができます。
本校サッカー部では、理念に共感頂き、応援したいと申し出て下さった企業名をユニフォームに入れさせて頂いています。
ユニフォームは毎年、ナイキジャパンのスポンサードを受けているので何着もあるんです。色も豊富にあって。一般的には高校の伝統としてユニフォームに入れるカラーが決まっているケースが多いのですが、本校ではそこは自由に出来ます。
京都橘は私が創部当時からの監督なので、前任者が作り上げた引き継ぐべき伝統が無いんですよ。なので企業様とコラボするうえでも、自由度が高いと思います。
ーーー今後は本格的にスポンサーを募って行くことも伺っています。今までの支援とは変わる点があるのでしょうか?
米澤監督
これまではユニフォームのご提供という物品での支援を頂いてきました。今後は資金面のサポートをして下さるスポンサーを募っていきたいと考えています。
募集にあたっては、サッカー部のホームページをリニューアルして、活用して行く予定です。支援して下さる企業様にはバナーを掲載させて頂くことで、宣伝の場をお約束するということになります。
---なぜ、資金での支援を募ろうと思われたのでしょうか?
米澤監督
今後もコロナ禍が長引けば、更なる経済的な打撃は避けられず、才能や志があっても希望する学校でサッカーが出来ないという選手が出て来るでしょう。そういったことが重なれば学校の経営にもたちまち影を落とすことになります。高校サッカー部という、選手を育成するための場が失われてしまうことになりかねません。
ヨーロッパや米国では、地域のアマチュアクラブや学校の部活にスポンサーが付くことが既に根付いています。日本の今後を考えても、保護者の負担や後援会の支援だけではやがて限界が来てしまう。新たな策として、高校サッカー部とスポンサーの企業様との間に「WinーWinの関係」を築いていく必要があると思ったのです。
スポンサーが付くことでサッカー部員の保護者の費用負担を軽減することができますし、社会とのつながりを感じながらサッカーに打ち込めることで、選手達が普段の行動にも自覚と責任を持てるようにもなる。「支えてもらっている」という感謝の気持ちが生まれ、サッカー選手としてだけではなく、一人の人間として成長することも期待できます。
スポンサーからの支援にはリターンとして「宣伝出来る場」をご用意出来るというメリットがあります。また、企業が持つ「地域と共に成長する」という理念や、地域活性化に貢献する活動の一環としても合致しているので、我々が頑張ることで企業イメージを良くすることにも繋げられるのではないかと思います。
---高校年代の選手を支援するとなると、配慮しなければならない点も多いのではないでしょうか。
米澤監督
その通りです。金銭のバックアップを受けるにあたっては、当然それに見合う人間を目指さなければなりません。
ただ、高校生はまだ完成された一人の人間ではなく、育成の段階にあります。学生の本分として学業がありますし、サッカー選手としてもまだ道の途中にいるということを念頭に置かなくてはなりません。
もしかしたら、バックアップを受けることで選手達が「精神的な窮屈さ」を感じるということもあるかもしれません。しかし、高校生年代から社会とのつながりを意識することは彼らの将来にとって必ずプラスになるはずです。自覚と責任を持ち、自分を律しながら、高校生らしい一生懸命さ、チャレンジ精神を失うことなくサッカーに真剣に向き合う。一人の人間として成長し、やがて自分たちが支えてもらったように別の誰かを同じように支えて行きたいと思う選手も出て来ると思います。
彼らの懸命な姿を純粋に応援したいという思いのひとつの形として「支援」という選択が出来る、そのことを目指さなければ成り立たないことだと思っています。
まずは部費の無料化から
将来的には環境の向上を目指す
---スポンサーからバックアップを受けることで、具体的にはどういうところを充実させていくのでしょうか?
米澤監督
毎月頂いている部費の無料化を目指したいと思っています。サッカー部では部費の他に、実費として遠征費がかかります。まずは部費を無料化することで保護者のみなさんの負担を少しでも減らしたいですね。
そして、これはまだずっと先の話になると思いますが、ゆくゆくは部活でありながらも、経営は学校から独立する、ということも考えています。グラウンドやバスを所有、管理するということも可能になって行くと思いますが、目標として一番充実させたいのは指導者の雇用です。
現在は学校の非常勤講師と言う形で指導者を雇用するかたちなのですが、学校から経営を独立させることが出来れば私の権限でコーチを雇うことも可能になるわけです。
指導者の賃金は決して高くはないので、アマチュアスポーツ界では一つのチームにだけ集中して指導するということが難しい現実があります。生活のためにいくつもチームを掛け持ちしなければならないという指導者も少なくないのではないでしょうか。指導者に十分な報酬を渡すことが出来れば、指導者の生活は安定し、指導の質も上がります。チームのレベル向上にも確実に繋がって行くはずです。
ただこれはもちろん、現段階では理想論です。
まずはまだ日本に馴染みのないアマチュアスポーツや高校サッカー部への支援に対する従来の考え方を変えることからのスタートです。少数でも賛同して下さる方がいるなら十分に意味のある挑戦だと思っています。何年かかるか分かりませんが腰を据えて取り組んで行こうと思います。
誰一人欠かすことは出来ない
全員がチームに必要な存在
---この新たな取り組みを通して、ますます京都橘高校サッカー部に関心を持つ人が増えそうですね。改めて、京都橘がどんなチームか教えてください。
米澤監督
本校はオランダ式サッカー、「ダッチビジョン」をベースとするチームです。攻撃においても守備においても主導権を握る、自分たちがボールを保持している時もそうでない時も常に相手をコントロールするという考え方でサッカーをしています。選手自らが考えて答えを出すということが重要なので、あらゆる状況で最適な判断が出来るようになることをテーマにトレーニングを行っています。
選手層を厚くするためにも選手達には常に競争の意識を持たせるようにもしています。練習試合やリーグ戦などでも色んな選手を起用することで選手同士、切磋琢磨出来ていると思いますね。
試合に出る、出ないに関わらず、全ての部員がサッカー部の一員として必要な存在であり続けられるよう、全員がモチベーションを保って同じ目標に向かうことを大切にしています。そこも本校の強みのひとつですね。
トレーニングの様子から「(レギュラーを)目指していないな」と思わせる選手が出て来てしまうこともあるのですが「レギュラーになれなければサッカーをする意味が無い」という考え方に囚われてしまってはその選手の成長は止まってしまいます。
試合に選ばれた11人の選手が戦えるのは共に同じ目標を目指して支え合う関係が根底にあればこそです。レギュラーが強くなるためには、他のどのチームよりも多く競い合う存在として、橘の全ての選手が強くなる必要があります。
ーーーチームの全員が同じ目標を共有するためには、どんなアプローチをすると良いのでしょうか?
米澤監督
本校では外部講師の方をお招きしてチームビルディング研修を行っています。
チームビルディングの目指すところは、選手同士が互いに尊重、信頼し合う関係の構築と全員で同じ目標を共有することにあります。
選手一人ひとりが役割を担い、同じゴールを目指す。サッカー部の全員が一人も欠かすことが出来ない必要な存在だということが実感できることが狙いです。
この研修は選手権などの大きな大会の前にやると非常に高い効果を生むんですよ。チームとしてのまとまりがより強固なものになり、選手達のモチベーションも高くなりますね。
---サッカー部に入部する選手は例年、どのように決まるのですか?
米澤監督
毎年沢山の選手が興味を示してくれているので、とてもありがたいですね。
本校ではセレクションは行わず、私がU-15年代の大会に足を運んだり、練習会に来てくれた選手達の中から光るものを感じる選手に声をかけさせて頂いています。
入部するのは毎年、25名前後です。
オファーのポイントは「即戦力になり得るか」ということと「伸びしろがどれだけあるか」この2つに重きを置いています。
こちらが望んでいても別の進路を選択する選手ももちろんいるのですが(笑)
最終的にはお互いがお互いを選ぶという形になります。
入部した選手は、高校卒業後に次のステージに行くことまで見据えてしっかりと育成していきます。
残り14年の指導者人生をかけて
ーーー米澤監督が思う高校サッカーの魅力とはなんでしょうか?
米澤監督
混じりけの無い、純粋な気持ちでサッカーに向き合って、とにかくひたむきにプレーする姿にはいつも胸を打たれます。「よくこんなに頑張れるな」「心底サッカーが好きなんだな」と思うほどです。
「地元の子がこの高校で頑張っている」「昔の同級生が試合に出ている」ということも高校サッカーの面白さのひとつですよね。知っている子が活躍しているとチームを身近に感じてもらえるということも言えるのではないでしょうか。
地元でヒーローだった選手がプロになることで、出身校にも興味を持ってもらえる。将来、プロを目指す選手たちのための舞台としても、高校サッカーが担う役割は大きいと考えます。
だからこそ、高校サッカーの質を向上させ、守って行かなければならないのです。
日本では教育現場に金銭での支援を求めることに、抵抗を感じる人もまだまだ多いでしょう。
それでも私は何年かかってもその意識を変えたいと思っています。
プロ選手を育成する場として、選手達を取り巻く環境を少しでも向上させたい。
日本で初めて高校サッカー部のユニフォームにスポンサー名を入れた時も色々なことを言われました。しかし、今ではスポンサー名を入れる高校も増えています。
賛同して下さる方々が確かに存在する。これもまた揺るぎない事実なのです。
私は今、46歳です。定年を迎える年まで残り14年。この間になんとか形にしたいですね。京都橘高校の次を担う指導者にバトンが渡るまでにこの仕組みを確かなものにしたいと思っています。
京都橘高校サッカー部データ
京都橘高校公式HPはこちら!
指導者
監督
米澤 一成
コーチ
佐藤 完樹
中村 凌太
植木 颯大
2020年度 部員
3年生25人、2年生27人、1年生21人、マネージャー5人
過去3年の戦績
2019年度
京都府高校サッカー新人戦 優勝
全国高校サッカー選手権 2回戦
高校選手権京都府予選 優勝
プリンスリーグ関西 準優勝
インターハイ全国大会 第3位
インターハイ近畿大会 優勝
インターハイ京都府予選 優勝
2018年度
京都府高校サッカー新人戦 優勝
高校選手権京都府予選 ベスト4
プリンスリーグ関西 第3位
インターハイ近畿大会 出場
インターハイ京都府予選 準優勝
2017年度
京都府高校サッカー新人戦 準優勝
全国高校サッカー選手権 2回戦
高校選手権京都府予選 優勝
プリンスリーグ関西 準優勝
インターハイ全国大会 ベスト8
インターハイ近畿大会 準優勝
インターハイ京都府予選 優勝
編集部注:上記データは2020年9月現在のものとなります。
最後に
米澤監督の決意の根底には、日々ひたむきにサッカーに向き合う高校生アスリートへの深い思いがある。
そのことを強く感じさせるインタビューでした。
京都橘高校サッカー部が今後どんな風に変わって行くのか。新しい挑戦を続けるサッカー部から目が離せません。これから先の未来、高校サッカー部にスポンサーが付くことが当たり前になっているかもしれませんね。
新時代を生きる勇気とヒントをもらえたような、とても貴重なお話でした。
米澤監督の挑戦を応援するとともに、京都橘高校サッカー部のますますのご発展をお祈りしています。
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