画像引用:日ノ本学園サッカー部facebook
過去8回のインターハイ全国大会では優勝5回、準優勝2回、3位1回、毎年の全国高校女子サッカー選手権大会でも健闘し、優秀な戦績を更新し続けている兵庫県の日ノ本学園女子サッカー部。
2020年4月、関西絶対女王に君臨する同校に新監督として村上裕子氏が着任されました。
静かでありながら熱量を感じさせる言葉には強い信念があり、ひたすらに選手を思い、誠実に向き合おうとする姿勢からは新生・日ノ本女子サッカー部への熱い決意が伝わってきました。
(文/電話取材:CRANE)
本文は写真の下から始まります。
村上裕子監督インタビュー
プロフィール
村上裕子監督
■出身校
仙台市立寺岡中→常盤木学園高→東京女子体育大
■選手経歴
2000年-2003年:私立常盤木学園高等学校
(2002年:第11回全国高校女子サッカー選手権大会優勝)
2003年-2007年:東京女子体育大学
(2005年:第14回全日本大学女子サッカー選手権大会準優勝)
2011年-2013年:FUNフットサルクラブLadies com VEEX
(2012年:第9回全日本女子フットサル選手権大会優勝)
2013年-2015年:VEEX TOKYO Ladies(フットサル)
■指導歴
2007年-2012年:川崎フロンターレ育成・普及コーチ
2012年-2017年:FC町田ゼルビアスクールコーチ
2017年-2018年:FC町田ゼルビアレディース監督
2018年-2019年:山梨学院大学女子サッカー部コーチ
■ライセンス
日本サッカー協会公認B級コーチライセンス
掲げるは「自立と前進」
画像引用:日ノ本学園サッカー部facebook
ーーー村上監督は日ノ本学園の新監督として4月から着任されました。緊急事態宣言の解除を受け、サッカー部はどのように始動していますか?
村上監督
コロナウィルスの影響により本校でも休校措置がとられ、サッカー部の活動が出来ていませんでした。
登校日などで私が受け持つクラスのサッカー部員をはじめ、2、3年生の部員の数名とは話すことは出来ましたが、サッカー部としてのミーティングなどはこれからとなります。
6月1日から学校が再開される予定で、ようやくサッカー部の3学年全員が顔を揃えることとなります。
まず初めにミーティングを行い、これからの日ノ本学園サッカー部のテーマや目標を共有していきたいと考えています。
トレーニングは、コロナウィルスの感染防止に努め、選手のコンディションを見ながら、段階的に進めて行くことになると思います。
ーーー最初のミーティングではどんなことをお話しになりますか?
村上監督
サッカー部のテーマの共有や、指導のどこに重きを置くかということについて話そうと思います。
2020年度のサッカー部のテーマは「自立と前進」です。
これまで部員それぞれが積み上げてきたことを試合で出せるよう、自分自身で考え、判断スピードを上げて行く。そして、「あの時の判断は本当にそれでよかったのか?」と、常に答え合わせをすることを大切にしながら前に進んで欲しいという思いがあります。
また、高校3年間のサッカーの中で、選手達には「目標を持ち続ける強さ」についても考えて欲しいと思っています。目標を叶えることをゴールにするということではなく、努力を継続した結果として目標が叶っていたという感覚を大事にして欲しい。
例えば、サッカーで全国優勝するという目標を立てたとします。しかし、その全国優勝というのは叶ったとしても翌年には他の学校に塗り替えられてしまうこともある。もっと言えば世界を視野に入れた時、日本一というのはまだまだ大きなこととは言えないと思うんです。日本一になって何か大きなことが残るのか?乱暴な言い方かもしれませんが残るのは名誉だけです。そしてそのこともいつか忘れられてしまう日が来る。
それでも、その目標に向かい、選手達はたくさん泣きながら、悩み抜きながら、死に物狂いでその場所を目指していくんです。
それがどういうことなのか、目標に向かって努力するということに自分の中でどれだけの価値を見出せ、どれだけの成長が出来るのか。それは全て自分次第なのだということを伝えていきたいです。
サッカーの指導については、今はどうしても段階的に行うことにはなりますが、部員達が次のステージに行くことも見据え、サッカーのベースとなる基礎技術や個人の戦術能力を伸ばすことを目標としています。その中でも一番高めたいことは「守備力」です。
どんなポジションにおいても、攻める上でも、チームの一人ひとりが守備の意識をしっかり持つことは効率よくゴールを奪うことに繋がります。そこを大事にしながら、攻守にわたり判断し続けるアグレッシブなサッカーを目指していきたいと思っています。
選手達に全力で向き合っていきたい
画像引用:日ノ本学園サッカー部facebook
ーーーコロナ禍で活動が思うように進まなかったにも関わらず、村上監督の中には具体的な選手像が浮かんでいるように見えるのはなぜでしょうか?
村上監督
休校で練習が出来ない間、私から選手達へ筋トレの課題を出したんです。特に強調したのは「スクワットを正しい姿勢で出来るようになっておいてほしい」ということ。スクワットはサッカーのプレーにおけるジャンプ力や瞬発力を養うための基礎であり、正しい姿勢で行うことが大切になってきます。模範となる動画を送付して、フォームを強く意識してもらう必要がありました。
週に一度、メールで取り組みについての報告や、分からないことがあれば質問をするようにと伝えていましたが、選手達からの返信には驚くほどの意識の高さが垣間見えました。
「筋トレをやるように」ということに対し、「今週は筋トレにプラスしてこんなトレーニングも入れてみました。」「このフォームで合っているか自信がありません。アドバイスをお願いします。」というような内容が多くの選手から寄せられ、少しのきっかけだけで主体的な取り組みが出来ることにとても感心しました。
ーーー与えられたことだけではなく、そこに自分にとって必要なことも入れて行くということですね!
村上監督
普段から「主体性を持って行動すること」を促していたとしても、それを実際にやることは難しいことなので、日ノ本学園の選手達には明確な目標を持っている選手が多いということも感じました。
向上心を持っている選手達に、「やった分だけ成長できる」ということを伝えながら全力で向き合いたい。チームとしても個人としても高いものを求めて行きたいと思えました。
ーーー村上監督がチームに「きっかけ」として提示した課題は一つだとしても、返ってくるものには選手一人ひとりの個性が出そうですね。
村上監督
選手達の持つ個性に向き合いながら、それぞれに合った効果的な指導が行えるようにしたいです。選手を知るための時間はかかるかもしれませんが、模索していこうと思っています。
その選手の持つ個性には良いところもあれば改善が必要なところもあるでしょう。
すぐに苦手を克服し改善出来るなら、それに越したことはありません。しかし、その選手にとって困難なことであれば、まずそのことに気づき、努力することを諦めないという姿勢が大切になってきます。
自分のことを説明するのが苦手な選手なら、まずそのことに向き合い、変わるためにはどんなことが必要なのかということを考えて欲しい。教えてもらうことを待つだけではなく、自分から方法を探り、そこから何かを掴める選手になってもらいたいという思いから、全て教えるということより、きっかけやヒントを与えるというアプローチをしていきたいと思っています。
ーーー選手一人ひとりが気づくことで、チームとしても向上して行くことに繋がりそうですね。
村上監督
個人個人の向上をベースに、チームとしてさらに高い所を目指す上で「意思を発信する」ことがとても重要になってきます。
「絆」や「一体感」は「仲が良い」、「問題が起きない」ということに限らず、「ネガティブなきっかけを協力して克服できた」ことからも生まれると思います。そのことに気づけたら選手達にとって大きな強みになるのではないでしょうか。
本当の仲間になるためには、言いにくいことも言わなければいけない時があります。
もし、チームとしてやって欲しいということを出来なかった選手がいたら、他の部員がそのことに気づき、意見したり協力できるようになることも意識してもらいたいと思っています。
日ノ本学園が求める選手とは
画像引用:日ノ本学園サッカー部facebook
ーーー2021年度、村上監督が思う日ノ本に必要な選手像を教えてください。
村上監督
基礎技術がしっかりしていること。高い向上心があること。
協調性や発信力、コミュニケーション能力もチームにとっては重要なスキルとなります。自分のことをはっきり自分の言葉で言える選手、意思を伝えられる選手には光るものを感じます。
ーーーコロナ禍を受け、来年度の選手募集にあたってもかなりの影響が出ていると思います。例年はどのような選抜方法を取られていたのでしょうか。
村上監督
2021年度の選抜方法に関しては、練習会開催など具体的なことはまだ決まっていないというのが現状です(5月27日現在)。
例年は練習会を開催して、参加してくれた選手の中から声を掛けることがあったと聞いています。それ以前にも中学生の公式戦などの場でスカウトするということもあったようです。
ーーー練習会は事実上のセレクションということにはなってくるのでしょうか?
村上監督
はっきりセレクションとうたって練習会を設けているわけではありませんが、結果的に、学校と選手の双方が「選ぶ」という考え方になるのだと思います。日ノ本サッカー部としてこの選手が欲しいと思い、その選手も日ノ本でサッカーをしたいという強い意志を持っていることが確認できたら面談、受験という流れになります。
ーーー選手の受験資格にはトレセンや世代別代表(候補)など、選抜歴も大きく影響しますか?
村上監督
選抜歴の有無は判断基準のひとつにはなり得ますが、一番大きな基準ということではないと思っています。
あくまで「良いものは良い」という考え方も私は持っています。
特にトレセンはその地域の競技人口なども関わってくるので、そこだけを重視して選ぶということは出来ない場合もあります。ただ、選抜歴は「その選手の努力が評価された」という視点では選手本人にとって強みに出来ることだとも思います。
日ノ本学園女子サッカー部データ
指導スタッフ
監督:村上裕子
コーチ:草苅文子
2020年度 部員数
3年生16人、2年生16人、1年生16人
※全員寮生(48人)
過去の戦績(3年間)
2019年度
兵庫県高校サッカー新人大会<女子の部> 優勝(15連覇)
第28回全日本高校女子サッカー選手権大会 ベスト8
第28回全日本高校女子サッカー選手権大会 関西大会 優勝
兵庫県高校女子サッカー選手権大会 優勝
全国高等学校総合体育大会女子サッカー競技(インターハイ) 準優勝
第72回近畿高等学校サッカー選手権大会<女子> (インターハイ) 優勝
兵庫県高校総体サッカー競技<女子>(インターハイ) 優勝
2018年度
兵庫県高校サッカー新人大会<女子の部> 優勝
第27回全日本高校女子サッカー選手権大会 ベスト8
第27回全日本高校女子サッカー選手権大会 関西大会 準優勝
兵庫県高校女子サッカー選手権大会 優勝
全国高等学校総合体育大会女子サッカー競技(インターハイ) 準優勝
第71回近畿高等学校サッカー選手権大会<女子> (インターハイ) 優勝
兵庫県高校総体サッカー競技<女子>(インターハイ) 優勝
2017年度
兵庫県高校サッカー新人大会<女子の部> 優勝
第26回全日本高校女子サッカー選手権大会 ベスト16
第26回全日本高等学校女子サッカー選手権 関西大会 優勝
兵庫県高校女子サッカー選手権大会 優勝
全国高等学校総合体育大会女子サッカー競技(インターハイ) 優勝・フェアプレー賞
第70回近畿高等学校サッカー選手権大会<女子> (インターハイ) 優勝
兵庫県高校総体サッカー競技<女子>(インターハイ) 優勝
最後に
意思のある、飾らない言葉には「伝える力」がある。
噛みしめるように話された熱い決意には、村上監督の真摯さがにじみ出ていました。
選手達を理解したいという思い、一方的ではなく、相手から引き出されるものを大切にする指導方針はこれからの日ノ本学園サッカー部に揺るぎない信頼関係を築かれるのではないでしょうか。
新生・日ノ本学園サッカー部がどんな活躍を見せてくれるのか。
1日も早くコロナウィルスが終息し、グラウンドで選手達が懸命に走る姿が見られる日が来ることを心から願っています。
貴重なお話を本当にありがとうございました。
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