中学生の頂点を競う高円宮杯 全日本U-15サッカー選手権大会において、2017年度、2018年度、2019年度と3年連続で東海大会準優勝の成績をおさめ、2017年度のクラブユース選手権では全国ベスト8に輝くなど、東海エリアの強豪チームとして その名を馳せる FC.FERVOR愛知(フェルボール)。
エスパルス、グランパス、ジュビロなど、J下部チームを含め10チームがしのぎを削る東海リーグへは2013年度に初参入し、2014年度 8位で昇降格戦に敗れるも、わずか1年で復帰。以降の東海リーグでは毎年安定した力を発揮し、愛知県のジュニアユースサッカーを牽引する存在となっています。
今回は、そんなFC.FERVOR愛知で 7年間にわたりジュニアユース部門の指導にあたれられている大橋啓介コーチにお話をうかがいました。
(取材・文/anan)
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FC.FERVOR愛知 大橋啓介コーチ インタビュー
大橋啓介コーチ
1988年5月1日生まれ
大阪府出身
岡山県作陽高校サッカー部
ルーティンを大切にし、試合に活かす
ーーーFC.FERVOR愛知(以下フェルボール)とはどのようなサッカーをするチームですか?
大橋コーチ
個を磨き仲間とともに楽しくチームのために戦える選手育成、人として謙虚であり、且つチーム名のフェルボールが意味する「熱情的」で高い志を持てる選手の育成を目指すチームです。
チームとしては、ルーティンを大切にし、クリエイティブでスピード感のあるサッカーに取り組んでいます。「ルーティン」とは「基本」の意味で使っている単語ですが、選手たちは毎日このルーティンを欠かすことはありません。
ラグビーの五郎丸選手が使用し一躍有名になったこの「ルーティン」という言葉を、フェルボールではそれよりもずっと以前から使っています。
選手たちは、この練習がなぜ必要なのかを自ら考え、毎日積み重ねます。フェルボールが大切にするルーティンとは試合で使う多くのものをメニュー化したものです。このルーティンを大切にすることによって、フェルボールが目指すサッカーを体現していきます。
試合で課題を意識させ、練習し、試合で改善させるMTM(マッチ・トレーニング・マッチ)という指導法がありますが、フェルボールでは「ルーティンで練習したことを試合で出そう、試し合おう」という指導をしています。
試合中に課題が出た時、「こんな状況だから、こうしよう」と思い付きで言うのは簡単です。しかしフェルボールでは思い付きで言うことは一切ありません。そのために試合で使うメニューを取り入れたルーティンをしているからです。練習でやっていないことをその場の試合でやろうとするのは、選手が困惑するだけです。
積み重ねた練習によって仲間と共有するものが生まれます。気持ちやメンタルの部分には常に声をかけ続けますが、技術や戦術的な部分をその日その日で変えてしまうのは間違いです。「練習でやっていることをやりなさい」というのが、代表の細萱※が選手を指導するうえで大切にしているノウハウであり、私たちフェルボールの共通認識となっています。
※編集部注:細萱 信行氏。FC.FERVOR ゼネラルマネージャー
写真参照:FC FERVOR Facebook
フェルボールを目指す子、全員にチャンスを
ーーージュニアユースでサッカーをしたいと考える愛知の小学生にとって、フェルボールは憧れのチームです。U-15のセレクションに参加する子も多いのではないでしょうか?
大橋コーチ
そうですね。セレクションには、フェルボールジュニアから6割、外部のチームから4割の割合で集まってくれます。東三河は少ないですが、知多からセレクションを受けに来てくれた子もいましたし、遠くは三重の四日市から通ってくる選手もいます。
愛知と小牧のセレクションを同時に行うので、その時にフェルボール愛知でやりたいのか、フェルボール小牧でやりたいのかのアンケートを取ります。強さを求める子、切磋琢磨し競争したい子、試合に出ることを一番に考える子、進路を見据えている子、と色々な考え方の子がいます。基本は、その子が希望したチームに所属できる希望選択制です。各学年70人ほどの選手が、愛知と小牧に分かれて活動しています。
ーーーセレクションではどんなところを見ていらっしゃいますか?
大橋コーチ
「フェルボールでサッカーがやりたい」という強い意思があるか、ですね。フェルボール愛があるか、です。
FCフェルボール愛知にはナイター施設がありません。冬場は発電機を使って練習したりします。今だと朝宮公園野球場の外野か、抽選に当たればナイターのある春日井市総合体育館グランドを使って練習します。近郊のチームには、うちよりも練習環境が整っているチームもあるでしょう。そんな環境の中で、フェルボールでサッカーがやりたいと思ってくれた子、フェルボール愛のある子は受け入れたいと思っていますし、全員にチャンスを与えてあげたいと考えています。
ーーーフェルボールでやりたいという強い気持ちが一番大切なのですね。チーム練習が野球場の外野とは!春日井市総合グランドは土のグランドでしたよね。
大橋コーチ
朝宮公園の外野は芝生ですが、春日井市総合グランドは土です。人口芝で練習することはほとんどありません。
フェルボールあるあるの中に、「合宿初日人工芝でやる大会の1試合目は絶対弱い」という言い伝えのようなものがあります(笑)。慣れていないからでしょうね、1試合目の最初はツルツルと滑っています。
サンフレッチェ広島では、あえて土のグランドで練習する時間をとっていると聞いたことがあります。そのほうが上手くなるから、と。人工芝で練習するメリットももちろんあります。しかし、土のグランドだからこそ、ボールコントロールなどの技術が育つようにも思います。
大事なのは、自分で考え自分で動くこと
ーーーJYの選手たちを指導する上で、大橋コーチが気をつけていらっしゃることや大事にされていることはありますか?
大橋コーチ
少し乱暴な例えですが、行きたいところに行く、食べたいものを食べる、ボールを受けたかったら動くでしょ、点を取りたかったら点を取れるポジションに入るでしょ、と思うわけです。 いちいち口をはさむ時もありますけど、自分で考え自分で動くことが一番大事だと思っています。しかしそれもルーティンの中で基準は設けています。
選手たちは色々な個性の集まりですから、学年によって3バックだったり4バックだったりとその年代によって戦術も違ってきます。一概に必ずこうするということはありませんが、中1、中2の間に色々なポジションを経験させることはしていますね。完全にCBだと思っている選手にボランチを経験させたりして、その子その子の可能性を広げ、適性を見るようにしています。
フェルボールOBで現在サンフレッチェ広島のFWとして活躍している鮎川峻※も、中2まではSBやCBをやっていました。後ろから出ていって点を取ってくるプレーヤーでしたね。中3でストライカーに転向し、県トレセンにも選ばれなかった選手が日本代表に選出されるまでになりました。天性のものも大きいですが、小さな頃からコツコツと積み重ねてきた後ろでの経験も、他の選手にはないFW像に少なからず影響しているのではないかと思います。
ーーージュニアユース選手の高校進学にあたってのケアはありますか?
進路相談をし、全選手にアンケートをとって志望する高校を聞きます。内申との兼ね合いを見て、その子の行きたい高校の先生方に連絡し、練習会に参加できるよう繋ぐことをしています。
練習会に参加したら最後は自分の頑張り次第です。けれど、今までの結果がフェルボールという名前を少なからず有名にしたこと、進学した子たちが模範的であること。こういった先輩OBの築き上げてくれたものが、U-15選手の進路決定において プラス要素になっているなと感じる時があり、嬉しく思います。
フェルボール事務所に飾られた歴代OB選手たちの写真
編集部注:鮎川峻選手
FCフェルボール愛知からサンフレッチェ広島ユースへ。
2018年高円宮杯U-18プレミアリーグファイナルで先制点を決めチームの優勝に貢献。大会MVP。2019年にサンフレッチェ広島とプロ契約。U-18日本代表選出。2020年サンフレッチェ広島トップチームへ昇格。
参照:ゲキサカ
東海サッカー発展のために
ーーー2020年度、新たにLiga Leste Mar (リーガレスチマール)というU-14リーグを立ち上げられました。東海4県から24チームが参加するこのリーグの設立には、どんな意図があったのでしょうか?
大橋コーチ
公式戦の少ないU-14の選手たちにもっと多くの経験を積ませたい。東海4県のサッカーを活性化し発展させたいという思いから設立しました。
この6,7年でしょうか。うちのU-14カテゴリーは、U-13リーグが終わったらU-15リーグ開始までの1年間、全く公式戦がない状態でした。
上手い選手をそろえるJ下部チームにはボルケーノというJ主催のU-14リーグがあり、戦術的にも、組み合わせ的にも、かみ合わせ的にも、1年を通してチームができあがっていきます。
対して、彼らより経験が少ない自分たちが公式戦もなく、U-15リーグが始まる3月に一緒にスタートをきるってどうなのだろう、と。チームの仕上がりや緊張感、経験値が全く違っているのではないか?と。
全国的に見ると東海のサッカーは弱いです。U-14においては強化させる機会が少なく与えたい。
仲良くさせていただいているRIP ACE(大阪)の今村監督に、この状況を変えたい、リーグを設立したいと話したところ、「いいじゃん、やってみなよ」と すぐに背中を押してくださって。
30分3本(30-5-30-5-30)の試合時間、18名以上を登録し全選手の出場を義務付ける、という「経験を積ませることを重視した競技方法」にも、東海の多くのチームが「いいね!ぜひ やろう」と快く賛同してくれました。2020年度は4県から24のチームが集まってくれましたが、次年度は30または32チームで開催出来たらと考えています。
関東には FC LAVIDA主催のLIGA SWS U-14、関西には RIP ACE主催の COPA AZUFLAGY U-14(コパ・アズフラージ)という大変レベルの高いU-14リーグがあります。東海 Liga Leste Mar U-14(リーガレスチマール)も、そこまでの存在価値に引き上げ、ゆくゆくはこの3つのリーグでチャンピオンシップを開催したいよね、と夢が広がっているところです。
Liga Leste Mar U-14(リーガレスチマール)パンフレット表紙より
FC.FERVOR愛知 データ
◆創設
1994年
◆チームスローガン
美しく克つ
◆チーム名称
FC.FERVOR
FERVOR(フェルボール)とはポルトガル語で 情熱よりももっと情熱的ないわゆる”熱情”という意味
◆監督
細萱 信行 監督/GM
◆ジュニアユース戦績
[2019]
全日本クラブユース選手権東海大会 ベスト16
高円宮杯 東海大会 準優勝
高円宮杯 全国大会 ベスト16
A:U-15東海リーグ 5位
B:U-15愛知県1部リーグ 4位
[2018]
全日本クラブユース選手権 東海大会 第3位
全日本クラブユース選手権 全国大会 ベスト32
高円宮杯 東海大会 準優勝
高円宮杯 全国大会 ベスト32
A:U-15東海リーグ 6位
B:U-15愛知県1部リーグ 4位
[2017]
全日本クラブユース選手権 東海大会 第4位
全日本クラブユース選手権 全国大会 ベスト32
高円宮杯 東海大会 準優勝
高円宮杯 全国大会 ベスト8
A:U-15東海リーグ 4位
B:U-15愛知県1部リーグ 7位
最後に
颯爽と登場するグリーンのユニフォーム。
ひとりひとりが仲間のために声を出し、個の打開力とチームワークを武器に圧倒的なスピードでゴールへ迫る。
試合でのフェルボール選手の姿は、まさに「美しく克つ」という言葉がぴたりと合います。
その凛々しい姿を支えているのは、フィジカルや才能にあぐらをかくことなく、誰よりも謙虚に、ひたむきに、一生懸命に、積み重ねられる地道な練習の繰り返しでした。
大橋コーチは、「フェルボールを選んでくれた」と何度もおっしゃいました。東海地区を牽引するチームの謙虚さに驚き感動するとともに、驕ることなく高みを目指すフェルボールの強さの一端を垣間見たような気がします。
高い志を持ちながら努力を続けるフェルボールの皆さん。これからのご活躍もとても楽しみにしています。
大橋コーチ、今回は貴重なお話 ありがとうございました!
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