2019年度には、この5年間で4度目の高校選手権全国大会優勝。近年めざましい戦績を残している藤枝順心高校。数多くの年代別日本代表、なでしこジャパンの選手を輩出している多々良 和之監督に常勝サッカー部の様子と、これから藤枝順心高校サッカー部を目指す女子生徒に期待することについてうかがいました。
言葉を大事に選びながら話す監督のお話の中には、選手の夢や目標を後押しする強い決意がありました。
(取材・文/水下真紀)
多々良 和之監督
※この記事は再掲です
2022年度現在、中村翔監督
静岡県焼津市出身。
大井川西少年団ー大井川中学校ー焼津中央高校ー岐阜教育大
89年から教諭としてサッカー部の指導に当たっている。
数多くの年代別日本代表、なでしこジャパンを輩出している。
優勝するためにやっているのではない。
ーーこれほどまでに戦績を出している女子サッカー部。選手たちはプレッシャーを感じていらっしゃいますか?
多々良 和之監督(以下、多々良)「私にはありませんが、選手たちは全国大会に出場することや、全国大会で優勝することを期待されていますし、自分達も結果では(高校選手権ではこの5年間で3回の優勝を果たしている分)優勝しか喜べないと分かっているので、プレッシャーを感じているかもしれません。
しかし、優勝することだけを目的に活動しているわけではありません。
わが校の伝統は、「進化」することです。常に高みを目指し、去年より上回ること。いつも挑戦し続ける気持ちでいます。そこを、指導者も選手も忘れずに取り組むことが大切だと考えています。
それに、この年代は育成年代であることを忘れてはなりません。そうすると、勝ち負けは二の次です。そのように考えればプレッシャーは感じません。」
ーー常に全国優勝を期待する声も多いのではないかと思いますが、最初からレベルの高い選手が多いのですか?
多々良「いえ、近年の選手のレベルが高いから結果が残せているとは思っていません。また、入学時のレベルが特に上がっているとは感じていません。むしろ、歴代の選手の方が上手い(技術の髙い)選手が多かったようにも感じています。
近年の選手の特徴は、レベルが平均化していてこれといった特徴のない選手が多いのではないかなという印象です。そして、うちは特にスーパーな選手が多いわけではありません。
入学時のレベルうんぬんよりも目的意識がはっきりしている選手、自分はこうなりたいという気持ちがあり、それに向かってひたむきに努力できる選手が伸びるのだと思います。
指導で気を付けているのは、サッカーのトレンドに敏感になるということ。身体能力や技術は確かに大事ですが、藤枝順心では、戦術的な理解力、判断の部分の能力を上げようという視点を大事にしています。
戦術的な理解力、判断の部分の能力を磨けば、サッカーを知り、相手の状況を見ながら相手に応じて状況を打開することができます。そのためにやっていることの一つがチーム分析です。」
パターン蓄積が選手の武器を増やす。
ーーチーム分析は何のために行うのですか?
多々良「チーム分析は多くのチームがやっていると思いますが、私たちも試合前に必ず相手チームのチーム分析を行います。
ですが、私たちは試合に勝つためだけにチーム分析をしているのではありません。
分析して選手に落とし込むときに、落とし込むものは相手のチーム情報だけではなく、戦術的な理解です。こういうときにこういうふうにすれば局面を打開することができる。こういう相手にはこういう打開方法がある。
自分たちのチームスタイルというものもあるのでしょうが、自分たちの強みだけで試合には勝てません。
相手に自分たちの強みを抑えられてしまうと何もできなくなってしまうこともあります。逆に、相手の良さを消すことで、相手が崩れて試合に勝てることも少なくありません。
自分たちのスタイルや強みはあるけれど、一つの事しか考えられない、一つの戦術しかできないチームを攻略することは簡単です。そのために、相手がどのようなチームで選手であるのかを踏まえてサッカーをできるようにならないといけません。
これまで選手が全国や世界へ出て活躍するためには、『対応力・適応力』であるとか『打開力』といった能力が必要になると感じてきました。試合には様々な試合があり、対戦するチームやマッチアップする選手も様々です。また、一つの試合の中でも目まぐるしく展開や状況が変わって行く。そういった様々な試合での状況を的確に掴み、その状況に合ったプレーを判断し実行するためには、高くて豊富な(多くのバリエーションがある)技術と戦術が必要になります。
自分の強みだけでは戦えないし勝てません。そんな相手が出てきたときに打開できるのは、より多くの戦術が蓄積できているチーム、選手です。局面を打開するために、多くの戦術を選手に蓄積してあげたいと思っています。そのためにチーム分析には時間をかけています。戦術的な理解力を高める練習にもなります。
前にもお話ししたようにこの高校時代は育成年代であることを考えると、この選手たちは高校サッカーで終わりの選手たちではない。まだ途中なんです。卒業したあとのほうが大事。よりサッカーを高める局面に送り出してあげるとき、蓄積した戦術の多さというのは必ず武器になるはずです。」
「みんなよくがんばっている」
ーー藤枝順心高校に多い選手像を教えてください。
多々良「みんながんばってますよ。ほんとにがんばっている。
その中でも、将来的に明確な思いを持っている子は伸びていくかな、という印象があります。
やはり、目指さないとその場所には行けないのです。
INACに行った杉田※という選手がいます。彼女もやはり入学時から明確な夢を持ってプレイしていました。自分は日本代表する選手、世界で活躍できる選手になりたいと。その他現在なでしこリーグで頑張っている選手たちもやはり思い描く夢があった選手達です。
サッカーが好きだ。
だから、こうなりたい。とイメージし続けること。
そこを目指して努力し続けること。
僕たちにできるのは環境を整えてあげることだけです。そのために精一杯のことをしたい。
選手自身の覚悟はもちろん必要だと思います。覚悟がなければくじけてしまう。女子は男の子以上にまじめな選手が多いので、ほんとにがんばっているなあと感じています」
※杉田妃和選手(INAC神戸):2018年夏になでしこジャパンデビュー。2014 FIFA U-17女子ワールドカップ(コスタリカ)主将、ゴールデンボール(大会最優秀選手)受賞。2016 FIFA U-20女子ワールドカップ(パプアニューギニア)MVPに選出。杉田選手の根源は「高校時代にある」と言われている(参照:LEGENDS STADIUM)
目的意識を持っている子に来て欲しい。
ーー藤枝順心高校女子サッカー部に入りたいと思っている中学生女子も多いと思いますが、どんな選手に来てほしいかという要望はありますか?
多々良「そうですね…特にこれでなければ、というものはありません。
ただ、目的意識は持って入ってきてほしい。将来的な思いを持っている選手は伸びていきます。こうなりたいんだというビジョンは持って入ってきてほしいですね。」
ーーサッカー部に入るのに制約などはあるのでしょうか?
多々良「県内の子は基本的に誰でも入部できます。ただ、県外の子は親元を離れて寮に入ってもらうのですが、寮には定員があります。したがって、希望する選手全員というわけにはいかず、人数を絞らせてもらうことになります。県外からの枠は寮の定員にもよりますが、例年だいたい10名程度かと思います。
15歳で親元を離れて寮生活をするということで、県外から来た部員にはやはり覚悟があります。好きなサッカーを極めたいという強い気持ちがある選手ばかりです。親の手を離れることで、人間としても自立できるはずです。
毎年夏に練習会をしています。以前は全国大会を視察したり、県内外問わず女子中学生のチームと試合をした際に声をかけさせていただいていました。最近は本校に興味を持つ中学生の方からアプローチをいただくことの方が多いです。門は開かれていますので、自分の目指す選手や自分がやりたいサッカーが本校で実現できると考える中学生はぜひ練習会に参加してください。」
藤枝順心を目指す女子中学生へ(多々良監督)
高校へ入ってくるときにスーパーな技術を持っている必要はありません。ただ、サッカーを通してこういうふうになりたいという未来像があることが大切です。その夢に向かって努力ができる選手を待っています。部の横断幕には「夢を掴め!」とあります。ぜひ、本校で夢を実現させてください。
藤枝順心高校女子サッカー部紹介
1994年創部。
監督:多々良 和之
平日:火・水・木・金 の16:30~19:00・土日祝日に練習を行っている。
2020年度の部員数は選手55名、マネージャー4名。
2019年度
静岡県高校女子新人サッカー大会 優勝(17連覇)
【全国大会】2019年度第28回全日本高校女子サッカー選手権大会 優勝(2年ぶり)
第15回静岡県女子サッカー ユースリーグ1部優勝
皇后杯 第41回全日本女子サッカー選手権大会【東海予選】全国大会出場
第28回全日本高校女子サッカー選手権(高校女子選手権) 静岡県大会 優勝
2019年度 東海高等学校総合体育大会女子サッカー競技大会 第1代表として全国大会出場
2019年度 静岡県高等学校総合体育大会 女子サッカー競技 優勝
下部組織である藤枝順心SC(中学生チーム)戦績
2019年度 第10回全日本U-15女子フットサル選手権 東海大会(愛知開催) 優勝
2019年度 第10回全日本女子ユース(U-15)フットサル大会 静岡県大会 優勝
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最後に
力のある言葉、ない言葉というのがあるとしたら、多々良監督のお話はおしなべて「力のある言葉」で満ちていました。
ひとこと、ひとこと、かみしめるように話された「みんながんばっています。本当に、うちの選手たちはみながんばっていますよ」という言葉に選手たちへのまなざしを感じました。上手な選手だけが評価されるのではなく、試合に出る選手だけが評価されるのではなく、全員を評価しているまなざしがないと生まれない言葉かと思います。
同じ県内の男子の静岡学園なども「育成」という
言葉を重視されてますね。順心とアベック優勝
しましたが、勝つことが目的ではないと川口先生も
おっしゃられてました。最近は常葉大橘や東海大
翔洋・磐田東などライバル校も力をつけてきていて
順心といえども県予選は簡単ではなさそうですが、
更なる高みを目指していただきたいものです。