3月2日から始まった休校要請に、日本全国で休校するところが相次ぎました。学校にとどまらず、サッカーチームにも活動を自粛するところがたくさん出てきています。
そんな中、埼玉県に「フットサルコートを無料開放し、たくさんの子どもたちに遊んでもらおう!」というチームがありました。イフレバンテというチームです。選手限定で開放しているのではありません。地域の全部の子どもたちが好きな時に来て、好きなことをして遊ぶ場としての開放です。
フットサルコート開放に踏み切ったのはなぜなのか。そこには「え、そんなの珍しいことなの?」というチームの自然体がありました。この自然体に支えられるチームはいったいどんなチームなのか。指導者、中村 洋平コーチに電話取材をさせていただきました。(取材・構成:水下真紀)
中村 洋平コーチ
中村 洋平
日本サッカー協会公認B級コーチ
日本サッカー協会フットサル公認A級コーチ
AFCフットサルフィットネスコーチ
FIFAビーチサッカーコーチング
フットサルコート開放を始めた理由
ーーこの時期にフットサルコート開放、グラウンド開放をしているチームは全国でも珍しいです。なぜこういう試みを始めようと思ったのですか?
中村コーチ(以下、中村)「僕たちはサッカーの指導者です。サッカーを育てる、という使命がある。今回、こんなことになってしまってサッカーをする場所がなくなってしまった。だったら、サッカーができる場所を提供しよう。それだけのことです」
ーーサッカーを育てる、というと?
中村「サッカーができる場所がなければ作ればいい。だから、フットサルコートを開放しました。運動が足りない子たちがいる。だったら、運動する場があればいい。
サッカーの根本は遊びだと思ってます。言われてやるものではありません。だから、今回開放しているフットサルコートも、文字通り開放しているだけです。遊びを考えるのは子どもたち。時間の使い方を考えるのも子どもたちです。フットサルコートに来て、子どもたちは好きなように遊んでいきます」
ーー電話の後ろに子どもたちの声が聞こえていますね。
中村「(笑)そうですね。今はちょっと少なくて、8人くらいの子たちが遊んでますよ。近隣のチームの子が大勢やってきて試合したりするときもありますが、鬼ごっこになることもあるし、追いかけっこになることもある。そのあたり非常に自由なんです」
「自由」がサッカーを育てる
ーー選手限定ではなく、地域に広く開いたことも特徴的だと思いますが。
中村「こういう時だからこそ、限られた世界じゃなくていいんじゃないですか。うちのチームの子たちももちろん来ていますが、違うチームの子たちも来るし、遠くからも来たりする。初めての子たちとも一緒に遊べますが、遊ばなくてもいい。そういう自由な空間でありたいです。
遊びがうまい子、うまくない子もいて興味深いですよ。自分で遊びを作り出せる子、作り出せない子がいますね。遊びを与えられないと遊べない子もいますが、サッカーがうまい子というのは遊びを作り出すのも上手です」
ーーたとえ今、遊びを作り出すのが下手な子でも、この機会に自由遊びを体験することで遊びを作り出すことができるようになるのでは?
中村「そうですね。そういう環境でありたいですね」
かなりの自然体。そして、気になるフレーズがありました。「サッカーを育てる」というフレーズです。子どもたちの笑い声をBGMに、より深く聞いてみることにしました。
「サッカーが育たない」
ーーイフレバンテさんでは、いつもの練習から「自由」を意識した指導をしているのですか?
中村「チャレンジの自由を作る環境でありたいとは思っています。
子どもって思いがけないことをしてくるじゃないですか。例えば、ある日ばっさり前髪を切ってくる。『なんでそんなことをしたの!』と怒ってしまえば、それは失敗体験になるわけです。でも、理由を聞いてみると『周りが見えづらかったから』とか答えるわけです。
周りが見えづらかった。だから、切った。目にはさみを入れることもなく、額に傷もつけず、ちゃんと切れたわけです。それってすごいじゃないですか。もちろん見てくれは悪いかもしれないけど、自分でチャレンジしたわけです。
だから褒めます。『すげえじゃん、うまく切ったな』と。でも、お母さんにしてみたら見た目が悪いのは困りますよね。で、その子と相談して最終的に僕が整えました(笑)」
ーーチャレンジを「成功体験」にしてしまうのですね。
中村「僕は成功体験を見つけることが得意です。同じことでも、言葉のかけ方、大人のとらえ方で成功体験にも失敗体験にもなるんです。一つ一つの子どものチャレンジを成功体験にしたい。だって、否定されたら失敗体験になるから。失敗体験を多く持った子に、チャレンジができますか?僕はできないと思うんです。」
僕たちは「指導者」ですから
ーー否定されることが多いと、大人でもチャレンジするのは怖くなりますね。
中村「僕もそうだったんです。人見知りで、すごいマイナス思考の持ち主でした。サッカー選手としてブラジルに渡ってそこは大きく変わりました。否定ではなく肯定されること、自分を認めてもらえることがどれだけ人を変えていくかということを体感しました。
だから子どもたちも認める環境を作りたい。これはチーム設立当初からずっとやってきたことです」
ーー成功体験をたくさん作り、肯定され認められる環境をつくるということですね。
中村「はい、そしてひとつ心がけていることがあります。
僕たちはティーチング(teaching)はしません。でも、コーチング(coaching)は行います。
サッカーは教え込まれてやるものではありません。自由な発想がサッカーを育てます。自由なアイデアにチャレンジして、ミスしたら『なんでできなかったんだろうね』と一緒に考える。行き詰っている子がいたら、『コーチのアイデアを分けてあげるね』という言い方はします。でも、教えません。子どもはそういう言い方をされると、自分でちゃんと考えるんです。
僕たちはサッカーを育てたい。子どもの成功体験をたくさん増やしたい。それは別の話ではなく、一緒の根幹を持った話だと思っています」
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フットサル場の開放。そのこと自体は「特別なことだとは思っていない」と苦笑とともに話されました。が、その自然体を支えるものは子どもの自由なアイデアづくりを応援するチームの姿勢でした。
いつまで続くかわからず、ともすると閉塞感溢れる世の中になりそうな昨今。埼玉県北本市のフットサル場から生まれる子どもたちの笑い声は、こうした閉塞感を吹き飛ばしてくれそうです。
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最後に
「僕は遊びを考えるのも得意なんです」と中村コーチ。「開いている時間帯は…?」とうかがったら、「営業時間中に来て、暗くなる前にみんな帰っていきますよ。1日中遊んでいる子もいますね」と、うかがう風景はさながら懐かしの昭和のよう。
これだけの遊びのコンテンツが充実している世の中で、遊びを与えられないほうがむしろ難しいものだと思います。この期間に「自分で遊びを作り出す」という時間を増やすのもまたよいのではないかと考えさせられた取材でした。
中村コーチ、ありがとうございました!
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