(この記事は再掲です)
今回はレアッシ福岡の吉廣ディレクターによる「育成とは何か」をお送りします。
ジュニア、ジュニアユース年代では特によく耳にする「育成」というフレーズ。
しかし、「何が育成なのか」と問われると漠然としている場合も多いように感じますね。
各チームによって、それぞれ掲げる部分に違いはあると思います。
様々な価値観に触れながら「育成」について改めて考えてみると、新たな気づきがあるかもしれません。(編集部)
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育成とは何か?
先日(9月頃)、クラブ内で「育成とは何か」というテーマについて各コーチが考えをまとめスタッフの前でプレゼンしてディスカッションする機会がありましたので、現時点での僕なりの考えをまとめてみました。
特に小学生、中学生年代では「選手の育成が大事だ」と言われますが、実際よく分からない育成という言葉。
また、育成とは「具体的に何をしないといけないのか」という部分が曖昧にされているように感じていますので、一度言葉を整理して、そこから「何をしないといけないのか」ということを考えてみたいと思います。
※現在地点での考えですので、今後も変化したりして行くのでご了承ください。
将来のために今学ばなければならなことに取り組む?
僕の印象としては、例えば「小学生年代の育成」と言った場合、「目の前の勝利にこだわるのではなく選手の将来を見据えて育成する」といったケースのように、あくまでも「選手にとって将来役立つことを今する」というイメージが強いのではないかと思います。
「今すぐには必要ではない要素だがこういうことをやっとおかないと選手が将来伸びない」といった例です。
しかし「将来役立つことに今取り組むこと」が本当に必要なのかといった疑問や、最終的にそれが10年後に役に立っているという現象は因果関係が見えにくく、とても曖昧なものになってしまいます。
例えば、「小学生年代はリフティングでボール感覚を磨いて将来に繋げる」という場合、それが本当に10年後に役に立っているのかが証明できません。
つまり『ゴールが遠すぎて今の取り組みが曖昧』になってしまい、「本当に今それをやらないといけないのか」「それが効果的に将来につながっているのか」といった議論が成立しにくくなります。
「育成」という言葉、普段よく耳にする言葉ですが、とても曖昧な表現かもしれません。
養成はゴールが明確、そして育成はゴールが曖昧
今回のプレゼンを機に「育成」に関連するいくつかの言葉を調べる中で「養成」と「育成」の概念の具体的な違いを知りました。
「養成」とは、例えば「エンジニアの養成」といった場合にはそのゴールは「エンジニアになること」です。
ここではゴールが明確になっており全てはそのためのプロセスです。
また、スタートからゴールまでのスパンが短く、「今取り組むこと」も明確になるのではないでしょか。
反対に「育成」という言葉は抽象的でゴールが不明確な印象があります。そのため、実際のサッカーの指導現場でもなかなか議論しにくいものなのかもしれません。
小学生年代を指導していて「将来を見据えての育成」に取り組んでいるといった場合、「本当にそれが将来につながることなのか、今の時期に取り組まなければならないものなのか」を客観的にジャッジすることは難しくなります。
そもそも、「10年後にこうなるためには今これを練習しないといけない」といった場合、その分析が的を得ているのかも曖昧になってしまいます。
では、曖昧な言葉を解消するために先ほどの「養成」という言葉を使ってみたらどうでしょうか?
小学生年代の指導をしていて「サッカー選手を養成しています」。
目的が「サッカー選手になること」という意味ではゴールが明確ですが、やはりゴールまでのスパンが長すぎて「今日取り組むこと」と将来の因果関係が見えにくくなる印象です。
(補足:もしかしたらクラブによっては「養成」と表現する方が良いかもしれませんが、今回は「具体的に今日何に取り組むか」ということについて考察しているのでどちらの用語が適しているかはいつか考えます。)
育成という言葉に段階的なゴール・目標設置を
小学生年代(中学生年代でも良い)で広く使われる「育成」という言葉。
ここから「今何をすべきか」といった取り組みは、果たしてそれが客観的に見て「本当に正しいことか」、「自分が取り組んでいることの正当性はあるか」ということの分析と実証はとても難しいものがあります。
そこで僕なりの答えですが、「段階的なゴール・目標を設定」することで短期的なスパンの中で、取り組むことが明確になるのではないかと考えています。
長期的な成長を視野に置きながらも、短期間での目標の設置、または、長期的に取り組んでいる部分と短期・中期的に取り組んでいる部分を明確化する。
いずれにせよ長期的な視点だけでなく、短期的な視点も必要です。
短期的なものであれば、それの検証・考察が明確になりますし、例えば2〜3ヶ月、もしくは半年、一年後でのゴール設定を行えば、「目標とするゴールに達したか」というジャッジは明確です。
では具体的に「育成」とは何を意味し、何に取り組むことなんでしょうか?
選手・チームをワンランク上のレベルに引き上げること
ここからは僕が自分なりに導いた答えで、日々指導の際の指標となるものです。
「選手を育成するとはどういうことか」
それは、
「目の前の選手・チームをワンランク上のレベルに引き上げること」、そして「その短期的な繰り返しが将来につながって行く」という考えです。
具体例を見てみましょう。
例1) レギュラーになりきれていない選手をレギュラークラスの選手レベルに引き上げる
例2)2部レベルでプレーできている選手を1部レベルでプレーできるレベルに引き上げる
例3)地区のトレセンまで受かった選手をもう一つ上の所に受かるように引き上げる
(※トレセンが良い悪いという話ではなく、分かりやすい例えです)
例4)前回負けたチームに対して次の試合では引分以上の結果になるようにチームのレベルを引き上げる
例5)前回セットプレーで失点したので次は失点しないように修正する
例6)サッカーを始めたばかりで体力がない選手を1試合走れるようにする
どうでしょうか。
ここで挙げた例はチームのレベルや状況によりますが、1,2ヶ月〜半年、1年といったスパンで考えられるものです。
共通しているのは、「短期的に選手・チームのレベルをワンランク引き上げる」ことです。
ワンランク上のレベルに引き上げるための重要なポイント
重要なポイントの1つ目は「その短期的なゴール・目標を設定する際にそれが達成可能なものかどうかの分析が正しいか」ということです。
例えば、「前回0-5」で負けた相手に対して、3ヶ月で勝利するようにチームのレベルを実際に上げることが可能なのか。
客観的にできるものなのか、それとも難しいものなのか。
つまり、「対象をしっかりと分析」できているかという問題。
2つ目は「それに対するメソッド」の問題です。先のものが達成可能な目標として設定した場合、それを実現するためのメソッドが適切かどうか。
この2つを正確に設定して行く必要があります。
この2つが設定された後、もし3ヶ月後にまたもや試合で0-5で負けたら、そもそも分析からの目標設定が妥当だったのか、もしくはメソッドの部分に問題があったのではないかと検証する必要が出てきますし、どちらか一方か両方とも間違っていたという結論も出るかもしれません。
また、3ヶ月では勝利できるようにするのは難しいと分析した場合、半年後なら可能なのか、1年後なら可能なのか、そうするとスパンが伸びてきて現在取り組んでいることとの因果関係が見えにくくなるので、それを中期的な目標に置きながら、短期では別の部分を改善する、その際に2つの異なる目標の関連性を意識する必要が出てきます。
反対に「中期的にも勝てない」と分析した場合は他の部分に着手しなければなりません。
現段階で僕が考えている「育成とは何か」というテーマと「具体的に日々取り組むこと」について書いてみました。
いろんな考えがあって然るべきですが、このテーマは「勝利か育成か」「サッカーコーチという仕事のジャッジ」など根本的な問題と絡んでくるのではないかと思います。
とりあえず、現段階での考え方をまとめ、自分の立脚点としてみました。ここからどうブラッシュできるかも今後の課題ですね。
寄稿:吉廣一仁ディレクター(レアッシ福岡)
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