※この記事は再掲です
AED(自動体外式除細動器)を知っていますか?
試合の時、よく本部テントで見かけるオレンジ色のプラスチックの箱。AEDと表面に書いてあるものがほとんどです。
今まで元気に試合で走り回っていた子供が、ゆるいパスを胸で受け、次の瞬間倒れた!意識も、呼吸もありません。そんな事故があります。これは大変危険な事故で、1分間に10%生存率が下がります。10分間で生存率は0%です。
持病のあるなし、体の強い弱いに関わらず、だれにでも起こる可能性のある事故。AEDを使えば助かる命が、あたふたしていて救急車が来る(全国平均20分)前に命を失う…。
こんな悲しい事故を起こさないために、ぜひともAEDについて知っておいてほしいのです。
photo:Jarrett Campbell
なぜそんな事故は起こる?
この事故は、心臓震盪(心臓しんとう)を起こし、心室細動が起きたことによる事故です。心臓震盪とは、胸に固いものが当たったことを直接の原因として起こる、心臓の筋肉の小刻みな痙攣です。脳震盪の心臓バージョンとイメージしてください。
「よほど強いボールが当たったのでは…」
と思うかもしれませんね。実はこの症状は、ボールの当たった速さや強さに関わりなく、あるタイミングに特化して起こる事故なのです。
心臓は、収縮を繰り返しています。ドクン、ドクン、…と表現される心音の、「ド」の始まり際にそのタイミングは訪れます。収縮のことを、「心臓の電気的活動」というのですが、病気が全くない子でも、心臓の電気的活動の収縮期の終わりごろ、このタイミングで胸にボールが当たると、「心臓震盪」の症状が起きます。心臓震盪が起こると、心室細動が起きます。心臓の筋肉が小刻みに痙攣し、体に血液が送れなくなります。心臓の真上に当たることで起こることが多い症状なのですが、みぞおちに当たって起きた例もあります。
心臓震盪の症状は、小さい子が投げたボール程度の強さでも起こることがわかっています。心臓に全く病気がない子でも起こります。
心臓震盪を起こすと、ばったりと急に倒れます。そして、呼吸は停止、心音も確認できず、脈も取れません。呼びかけても返事もしません。
10分間の放置で、死に至ります。
実はこの心室細動による死亡は、交通事故死の4倍の多さです。これを救えるのが、AEDです。3分以内にAEDをかければ、4人に3人は救命できるというデータがあります。
リスクはボールが当たるだけじゃない
心臓震盪は、ボールが当たるだけが原因ではありません。アメリカの実際の報告例だと、
・肩が相手の心臓に当たった
・肘が入った
・膝が当たった
などのことで起きた例があります。
ラフプレーが原因となる可能性がある事故なのです。この事故は、心臓震盪を起こしてしまった選手だけでなく、後遺症が残ったり(多くは脳障害になります)、死に至ったりすると、起こさせてしまった選手も心に深い傷を負うことになります。
ラフプレーに走りがちな子には、しっかりと注意してください。フェアプレーは、自分の心を守るためでもあるのです。
AEDを使ってみよう
試合中に選手が急に倒れました。
審判が駆け寄って、「大丈夫か!」といっても返事もしません。
呼吸もありません。
駆け寄って、意識と呼吸の有無を確かめるのに、だいたい2分かかります。
ここまでで、もし選手が心室細動を起こしていた場合、生存率は80%になります。一刻を争います。
あなたがテントのそばにいたら、すぐさまAEDを持って駆け付けてください。
その間、近くの誰かに119番を依頼してください。
AEDの到着を待っている間、手の空いている人は、人工呼吸及び心臓マッサージ(CPRといいます)をしてください。
他の選手たちを下がらせ、静かにさせます。
上半身をめくり、汗でぬれているようならあなたの来ているTシャツでもなんでも拭いてあげてください。ぬれた面には、パッドが付きにくいからです。
AEDを開けると、中に電源スイッチがあります。
これを押してください。
あとは、AEDの指示に従ってパッドを選手の体に張り、必要に応じて電気ショックをかけます。
必要があれば、「ショックボタンを押してください」とAEDがアナウンスします。
心音が復活する、呼吸があるなどのことがあれば、「ショックは不要です」というアナウンスが流れます。
他の選手を遠ざけて静かにさせるのは、このアナウンスをしっかり聞くためです。
「意識と呼吸の有無なんて、わからない…」という方も、心配ありません。指定された場所にパッドを貼ると、AEDが呼吸の状態と心拍の有無を計ってくれるからです。「ある?ない?」と迷っている間にも、時間は経ちます。時間は、そのまま命の砂時計です。
迷ったら、パッドを装着すればいいのです。ショックを与えるかどうかは、AEDが判断してくれるからです。
「ショックは不要です」と言われたら、なおぐったりしていても、揺らしたりせずに落ち着いて救急車を待ちましょう。もし、救急車がくる間に心臓が停止した場合、すぐさまAEDが感知して、「ショックを与えてください」のアナウンスがあります。
ショックを与えるときは、下がってください。高圧電流が流れます。
ショックを与えた後は、パッドを付けたまま、心臓マッサージを行います。それでも心拍が戻らない場合は、もう一度「スタートボタンを押してください」のアナウンスが流れます。救急車が来るまで、パッドはつけっぱなしにしておいて、その指示に従ってください。
AEDを使うと、死亡率を低下させられるだけでなく、脳障害などの後遺症の予後も良いことがわかっています。
AEDを使うときの3つの疑問
■使ってはいけない年齢はある?
大人用のAEDは、8歳以上、25キロ以上の子どもなら使えることになっています。これ以下の小さいジュニア選手には、小児用パッドの使用が望ましいとされています。おそらく、試合会場に設置してあるAEDは、小児用パッドも常備されていると思います。
もし準備がなくても、迷わず大人用を使ってください。放置するリスクに比べたら、強い電流を流すリスクのほうが格段に低いからです。
■法的な責任は取らなくてよい?
取る必要はありません。AEDの使用は医師法に定められていますが、周囲に医師がいない状態で、1度きりの使用なら、問題ありません。むしろ、放置しておくほうが責任は大きいといわれています。
講習を受けておくことが望ましいのですが、もちろん、一般人でも使用してかまいません。日本では、2004年7月1日から一般人の使用が許可されています。一般人でも使用できるように、アナウンス機能がついています。
ただ、もちろん扱いになれている人のほうが落ち着いて対処ができます。自分に自信がなかったら、「AEDを使える方!」と叫んでみましょう。保護者の職業はさまざまです。警察官、消防隊員、医師、看護師などの職業についている方は、問題なく使えるはずです。そうした職業ではない人も、救急救命講習を受けた人は問題なく使えます。
■ショックに害はないの?
ショックの必要・不必要はAEDが判断します。任せておいて大丈夫です。AEDが判断して、ショックが必要、となった時には害はありません。ショックの必要がありません、といわれたときには絶対にショックを与えないようにしましょう。
AEDがない場所での事故、どうする?
ところが、お子さんがサッカーをするのは、AEDが完備されている試合会場だけではありませんよね。
町の小さな公園、広場…そんな場所で心室細動が起きてしまったら、どうすればいいでしょう?
AEDがないのなら、心臓マッサージを繰り返すしかありません。誰かに救急車を依頼し、速やかに心臓マッサージを始めましょう。
みぞおちの上あたりに両手を90度に重ねて置きます。
胸が軽く沈み込むほど15回押したら、呼吸を確かめます。
呼吸がなければ、また15回。
呼吸を確かめて、回復しなければ、また15回。
これを、救急車の到着まで繰り返します。
あきらめずに繰り返してください。
呼吸が回復すれば、そのまま安静にさせます。
必ず一人は横に付き添い、呼吸に気を配っていてください。心臓マッサージは、かなり体力を使います。人がいたら、交代しながら行ってください。
心臓マッサージについての疑問
■意識があるかないかわからない
まず、マッサージをしてみてください。意識がある状態なら、痛くて耐えられません。ろっ骨が折れるほどの力になるからです。何らかの反応があるはずです。反応があったらすぐにやめましょう。
就学前のお子さんにする場合は、指2本で行います。大人にも子供にも、リズムは、「アンパンマンのマーチ」のリズムで押してください。
■息をしていない!人工呼吸も一緒にした方がいい?
人工呼吸とセットで行わなければならないと思っている人が多いようですが、人工呼吸は行わなくても、蘇生率に違いはないようです。
平成27年6月に京都大環境安全保健機構により、人工呼吸は行わなくても、蘇生法として成り立つという発表がありました。
このような病気も心室細動を起こします
■肥大型心筋症
心臓の筋肉が肥大し、腺維化する病気です。スポーツの途中に負荷をかけると、心室細動が起きます。
■先天性肝動脈起始異常
先天性疾患です。本人も気が付かないことが多く、運動時に血液が足りなくなり心臓の筋肉が虚血状態となる病気です。安静時には全く問題がありません。
AEDの情報はこちらの本が参考になります
『AED 街角の奇跡 「勇気」が救った命の物語』
(田中秀治、島崎修次 著 ダイヤモンド社 2010年)
素早い対処がいかに大切か、教えてくれる本です。実際には、使用を迷わない人はいません。使うまでの葛藤が書いてある本は他にありませんので、シュミレーションに最適です。
『DVDで学ぶカンタン!救急蘇生 胸骨圧迫&AED完全マスター』
(石見拓監修 学習研究社 2008年)
目で見て学びたい人にはこちらがおすすめです。やはり、その時初めて見ると、パニックになってしまいがちなので、映像資料で見ておくことは良いイメージトレーニングにもなります。
『AEDを、使ってくださいー人工呼吸・心臓マッサージができなくても』
(輿水健治著 保健同人社 2006年)
AEDを使う意味、またその使い方が、一番わかりやすく書いてある本だと思います。医学の知識が全くなくても、AEDを使う心の敷居を下げてくれる本です。
実際に起こった事故
■カメルーン フォエ選手
2003年、サッカー・コンフェデレーションカップの時、カメルーンのフォエ選手が試合中に突然倒れ、45分後に死亡する事故がありました。ピッチ上には多くの選手、審判がいましたが、誰も何も処置をせず、心臓マッサージすら、行われませんでした。フォエ選手は、自覚症状もないくらい軽度の肥大型心筋症を患っていたようです。AEDを行っていれば、救えた可能性の高い事故でした。
■UDサラマンカ ミゲル・アンヘル・ガルシア・テバル選手
反対にAEDのおかげで一命を取り留めたのはセグンダ・ディビシオン(スペイン2部)に属していたUDサラマンカのミゲル・アンヘル・ガルシア・テバル 選手。2010年、ホームでの試合中に心停止により突然グラウンドに倒れた。両クラブのチームドクターによって心臓マッサージやAEDを用いた蘇生措置が取られて何とか一命は取り留めた。
倒れてから応急処置を施され、救急搬送されるまでの映像が残っています。
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最後に
日本でも、今回紹介したような運動中の事故は起こっています。野球やサッカーに多いのですが、ランニングに起こる例もあります。
都内でも、2015年5月、フットサル大会の試合中にボールが胸に当たって心室細動を起こした選手がいました。この選手は、AEDの使用により、一命をとりとめました。
心臓震盪は、スポーツ選手なら、誰にでも起こる可能性のある事故です。
自分のお子さんが相手に当てた肘が原因で、相手のお子さんが死に至ってしまったら?
たった一度の胸トラップが原因で、自分のお子さんが死に至ってしまったら?
リスクを恐れていては、スポーツなど、何もできません。
が、リスクに対して「うちの子に限って大丈夫」と目をつぶらずに、しっかりと「起こってしまったとき、どうすればいいか」を知っておかないと、救える命も救えません。
悲しい事故を起こさないために、ぜひ!AEDを使うという選択肢を、胸の中に入れて置いてくださいね。また、機会があったら救命講習をうけるのもおすすめです。
何でもかんでもAEDで助かるっていう風潮は何とかならないですかね・・・あくまでVT、VFを止める事が出来る可能性があるってだけなのに・・・マスコミに踊らされるのも大概にすべきかと・・・勿論ある意味正しいんだけど、うのみにしてAEDかなかったから助からなかったとか・・・医療側に全ての責任を押し付けるのはやめてほしい。
心配蘇生で胸骨圧迫のみの場合、連続して行います。普段通りの呼吸や体動が確認されるまでは止めてはダメです。