画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
2019年度のインターハイ富山県予選準優勝、選手権富山県予選ベスト8。2020年度富山県インターハイ代替大会でも見事ブロック優勝を果たした富山県立富山中部高等学校サッカー部。
同校は毎年、東京大学や京都大学を始めとする国公立、難関私大に多数の合格者を輩出する富山の名門です。
高い目標を持ち、文武両道を地で行くサッカー部員の皆さんは普段からどんなことを意識しているのでしょうか?
2020年度、サッカー部の監督に就任された橘 和徳先生にお話をうかがいました。
(電話取材・文/CRANE)
橘 和徳監督インタビュー
監督プロフィール
橘 和徳監督
富山県立富山中部高校 教諭/サッカー部監督
1986年10月16日生まれ 富山県出身
【選手歴】
作道サッカークラブ(4種)→FCひがし(3種)→富山中部高校サッカー部(2種)→筑波大学蹴球部→ジョカトーレ高岡(社会人)→トロブラボ富山(フットサル)
【指導歴】
2006~2010 竹園西FC(4種)
2007~2011 筑波大学女子サッカー部(GKコーチ)
2011~2012 FC湖北(キッズ・4種・3種)
2012~2015 上市町立上市中学校(3種)
2015~2019 富山県立富山いずみ高等学校(2種)
2020~ 富山県立富山中部高等学校(2種)
2012~現在 富山県トレセンU-13~17 GKコーチ
【指導資格】
JFA公認B級コーチ、GKレベル2コーチ
TOYAMA2020ブロック優勝!
「限られた時間だからこそ良い準備が出来た」
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
ーーー先日のTOYAMA2020高校スポーツ交流大会(※)でのブロック優勝、おめでとうございます!活動自粛期間がありましたが、この大会に向けての準備は十分に出来ましたか?
橘監督
ありがとうございます。無事に大会が開催されたこと、LIVE配信が実現したことをとても嬉しく思っています。大会にご協力いただいた皆さん、応援してくださった皆さんに改めて感謝を申し上げます。
JFAのガイドラインに、「公式戦出場までに4~6週間のトレーニングを行うこと」という指針がありましたので、それを参考に代替大会の日程が設定され、学校の定期考査の期間等も考慮の上、休校明けの6月1日から7月23日の大会開幕に向けての活動スケジュールを組みました。
制約が多い分、本当に必要なことだけを選択できたので、返って効率が良かったですね。時間が無かったからこそ、やるべきことを明確にすることが出来たのだと思います。
大会に向けて最も重きを置いたことは、選手達のフィジカルをゲームが出来るまでのレベルに戻すことでした。段階的にトレーニングの強度を上げ、大会に合わせてベストの状態に引き上げて行きました。
選手達は「この大会でチームとしてどう戦うか」、「どんなサッカーがしたいか」ということを詳細に話し合っていましたね。精度としてはまだまだの部分もありましたが、丁寧にパスをつないでゴールまで運ぶということや、積極的に裏のスペースを狙うなど、自分たちで決めた目標にしっかりチャレンジ出来ていたと思います。
※編集部注
TOYAMA2020高等学校スポーツ交流大会サッカー競技はインターハイ富山県大会の代替大会として開催され、サッカー競技は2020年7月23日(木)24日(金)26日(日)8月2日(日)に行われました。
サッカー競技の大会HPはこちら
『100:100』でサッカーと大学受験に挑む!
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
ーーー選手権やインターハイの富山県予選でも上位の戦績を残されている富山中部高校は、毎年東大合格者を輩出している進学校としても知られています。文武両道というイメージがありますが、指導する上で大変だと思うことはありますか?
橘監督
私は今年度から本校に着任し、13年間監督を務められた前任の藤澤昌史監督からサッカー部の監督を引き継ぎました。私自身、本校の卒業生でサッカー部のOBです。かつて自分が本校で学んだことも大切にして、生徒への指導に活かしたいと考えています。
自分が辿ってきた道ということもあって、選手達の置かれている状況がよく分かるからなのか、周りの方からも「選手達との距離の取り方が上手い」と言って頂くこともあります。
多少厳しい要求をしても選手達は素直に受け入れてくれています。私も同じことをやってきた人間なので、「何も言えない」ということなのかもしれませんが(笑)
ーーーサッカーと勉強、どちらか一方の比重が大きいということはあるのでしょうか?
橘監督
サッカー部に限らず、本校で部活動を行っている生徒たちは第一志望校への進学を目標に勉強にも力を入れながら、自分のやりたいことにも真剣に取り組むという考え方を持っていて、そのどちらかに偏るということはほぼ無いように思います。
私も勉強とサッカーの熱量は『100:100』の比率というスタンスで指導に当たっています。よく、『50:50』と言う言葉を耳にしますが、100を半々に分けるのではなく、両方とも全力で取り組むことが望ましいと考えます。車も両輪の一方が傾けば安全に走行できなくなるように、どちらかが疎かになればもう一方にも必ず影響が出てしまうからです。
選手達もそのことがよく分かっているのでしょう。私が在籍していた頃もそうでしたが、近年もほとんどの選手がサッカーと勉強を両立し、選手権予選が終わるまで部活を続けることが多いと聞いています。
様々な大学から練習会へのお誘いの声がかかることもあるのですが、皆スポーツ推薦ではなく、勉強して自分の希望する大学を受験しますね。
サッカーと受験勉強の両立は容易なことではありませんが、本人の意思次第でいくらでも希望通りに出来ることではないでしょうか。打ち込んでいることに価値を見出すのも本人次第、限界を決めるのもまた、本人次第です。基礎の部分がしっかり出来ていれば、あとは時間を上手く使ってやりくりすれば両立は決して不可能なことではないと考えます。
伸ばすべきは『圧倒的基礎力』
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
ーーー勉強との両立については具体的に指導されていることはあるのでしょうか。
橘監督
私が選手達に身に付けて欲しいと思っているのは『圧倒的基礎力』です。
難しい問題を時間をかけて解くということも勿論大切ですが、簡単な問題を効率よく解き、何度も正解出来るようにすることも大切です。サッカーも同じで基礎はとても重要ですよね。プレーにおける様々なアイディアは、「止める、蹴る、運ぶ」がしっかり出来ているからこそ増やせるものではないでしょうか。
体力の基礎の部分を伸ばすために、サッカー部員だけではなく、男女全生徒が体育の授業でウォーミングアップとして、腕立て、腹筋、背筋、スクワット、バービーの補強運動5種目とランニングを毎回行っています。負荷のかけ方は科学的に検証して推奨する心拍数を決めています。
自分のペースで出来るようにスピードの調整は各自に任せていますので、生徒によって早く終わる生徒、遅くなる生徒が出てきます。全員が終るまで待つルールなので、早く終わった生徒の中には回数を増やす者もいますね。
その効果もあって、陸上部やサッカー部の生徒に限らず、持久走で非常に良いタイムを出す生徒も少なくありません。3年間続けるとかなりの体力がつくと思います。体力は、運動部だけに限らず、どの生徒にも必要です。受験というのは体力が無ければ乗り越えられないことですから。
基礎がしっかりしていると効率が良くなるので、時間の使い方も上手くなります。
サッカー部員には真面目で何事にも手を抜かないという選手が多いのですが、やみくもに詰め込むということではなく、「何をどの時間にどれくらいやるか、どれだけ効率良くこなすか」ということを常に考えているように思います。
この夏休み中、あまりの酷暑で練習時間を夕方16時からに設定したのですが、部員達からの不満の声は一切ありませんでした。練習を夕方にすると、「練習は午前中の方がその後のスケジュールが立てやすい」という声があがりそうなものですが、本校の部員は勉強するにはその方が効率的だと思うようです。自発的に朝の7時半から学校に来て勉強し、その後に練習をして帰宅するという課業中と全く変わらない日々を送っている者もいました。
圧倒的基礎力は生徒たちの自己実現に大いに役立ちます。大学に合格することはゴールではなくスタートです。一生学び、人生を楽しむ。自分の人生を自分で設計できる人間を育てるため、授業でも部活でも常に課題を与えています。
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
自ら道を切り開いた女子部員たち
ーーー現在、富山中部高校サッカー部には女子部員が1名在籍しているそうですね。これまでにも女子部員が在籍したことがあったのでしょうか。
橘監督
本校のサッカー部に在籍した女子部員は私の知る限りこれまでに4名で、初めて女子部員を受け入れたのは2007年のことだと聞いています。
成瀬 明(なるせ あかり)さんと前谷 奈津紀(まえたになつき)さんの2人が本校サッカー部の初めての女子選手だと思います。
当時は二人ともクラブチーム、「富山レディースSC」に登録しており、部活の練習が終わった後にクラブの練習にも参加していました。富山レディースSCの練習会場は本校のグラウンドなので合流しやすいという点はメリットだと思います。
成瀬さんは2003年の第27回全日本少年サッカー大会に富山北FCジュニアの一員として出場し、女子選手として初めて決勝戦のピッチに立った選手です。決勝戦では江南南SS(埼玉)と対戦し、日本代表の原口元気選手(ハノーファー96所属)と渡り合った経験をもっています。
前谷さんもそうですが、高校時代は二人とも走力や技術が優れており、男子と練習を共にしても遜色のない実力がありました。
彼女たちは高校進学を考えた時に、県外の強豪校などからの誘いもあったようですが、二人とも本校に進学して勉強と両立することを選びました。本校卒業後、成瀬さんは東京大学に、前谷さんは順天堂大学に進学しました。成瀬さんは大学入学後、一度はサッカーから離れたようですが、やはりもう一度サッカーがしたいと思い立って、現在の東京大学運動会ア式蹴球部女子を創設しました。
前谷さんもまた、順天堂大学蹴球(サッカー)部女子の草創期にプレーしています。初代女子部員の2人からは自分のやりたい道を自分で切り開いていくというパイオニア精神を感じますね。
3人目となる中田貴子(ナカタ キコ)さんは現在筑波大学の4年生で、勉強に励むとともに、筑波大学女子サッカー部で頑張っています。
そして今年、中田 貴子さんの妹の中田若葉(ナカタ ワカバ)さんが入部しました。姉の貴子さんと同様、富山レディースSCにも在籍しながら、勉強とサッカーを両立して頑張っています。
若葉選手も2017年にキヤノン ガールズ・キャンプ JFAエリートプログラム女子U-13トレーニングキャンプに選出されるなど、小学生年代から実力の高い選手です。他府県の強豪校などからの誘いもあったようですが姉の貴子さんの勧めで本校に入学することを選んだようです。
本校は学業においても部活動においても目標を持って臨む生徒の姿勢を尊重し、応援したいという方針を取っていますので、勉強とサッカーの両立をしながら人生設計を考える女子選手にとって、今後も一つの選択肢になればよいと思います。私自身、学生時代に中田 貴子さんの所属する筑波大学女子サッカー部でGKコーチを務めておりましたので、その経験や情報に基づいて大学進学や大学女子サッカーについてのアドバイスもしてあげられればと思っています。
※編集部注
現役部員の中田若葉選手は富山レディースSCで選手登録しているため、高校サッカー部の公式戦には出場できませんが、練習試合には出場可能ということです。(これまでの女子部員の皆さんも同様。)
「PRIDE OF RED」
歴史に誇りを持ち、伝統を引き継ぐ
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
ーーー橘監督が掲げる中部高校サッカー部の今後の目標を教えて下さい。
橘監督
今後のサッカー部は、目標達成に向けて「ミッション(使命)、ビジョン(未来像)、アクション(行動)」の3つを明確にして活動していきたいと考えています。
ミッションは「地域の方々、周りにいる方々から応援してもらえるチームになること」、「周りに良い影響を与えられる人になること」です。
部員達には人が集まるところではリーダーの役目が出来る人になって欲しいと伝えています。何事にも最初に気が付き、最初に動ける人になること。物事を流れで捉え、今この時に何が必要かを先のことまで読んで考えられ、実際に行動に移すことのできる人になって欲しい。電車の中で困っている人に席を譲るのではなく、最初から座らない、誰かのために席を開けておけるような真のエリートになって欲しいのです。惜しみない献身で周りに気を配ることが出来、責任を担える人に成長してくれたらと思っています。
ビジョンは「富山県で優勝し、全国大会に出場すること」。
「たまたま運が良くて勝ち上がった」ということではなく、サッカーをすることで何を得られるかを常に考え、富山中部が大切にしている丁寧につなぐサッカースタイルを貫いて1位を獲る。その上で全国大会のピッチに立ってもらいたい。
全員が志望大学に現役合格することも、もちろん目指して行きます。センター試験、今年度からは共通テストになりますが、その一週間前にある全国高校サッカー選手権大会の決勝の舞台に誰一人欠けることなく臨むという大きな夢も実現させたいと思っています。
これらのミッション、ビジョンを達成するアクションとして、本校そしてサッカー部の歴史に誇りを持ち、「伝統を引き継いでいく」という意識でサッカーと勉強に向き合って行って欲しいと考えています。
本校は今年で100周年を迎えます。
大正9年に「神通中学校」として創立され、その2年後にサッカー部が創部されました。98年の歴史の中で、選手権全国大会に8回、インターハイに5回、当時は単独チームでの出場が認められていた国体にも多数の出場経験があることが記録として残っています。これらの実績から、県内には今もなお「富山中部はサッカーが強い」というイメージを持つ人が少なくありません。
部員たちがサッカーに思いきり打ち込むことが出来るのは、先輩達が積み重ねてきたもの、残してきた実績が富山中部高校の礎となって支えてくれているからに他なりません。
サッカー部のスローガン、「PRIDE OF RED」を胸に、先輩達が築き上げてきたことを引き継いでいきたい。歴史を背負い、誇りを持つことを部員達には今後も大切にして行って欲しいと思っています。
しかし、現状としては1986年以来、全国大会への出場は叶っていません。この目標は私が監督を務めている間に何としても達成したいですね。
これからリーグ戦(会場・試合時間非公開)もスタートしますので、一戦一戦、内容にも勝負にも拘って戦っていきたいです。
代替大会ではブロック優勝をすることができましたが、私も部員も現状には全く満足していません。技術面でもフィジカル面でもメンタルの面でもまだまだ精度を上げていかなければなりません。私たちの、そして部員一人一人の大きな夢・目標に向かって一歩一歩前進できるよう、頑張っていきたいと思います。
富山中部高校サッカー部データ
画像引用:TOYAMA2020高校スポーツ交流大会サッカー競技HP
スタッフ
監督:橘 和徳
コーチ:麻生 慶彦
コーチ:安村 良紀
コーチ:村井 裕章
GKコーチ:中島 悠
2020年度部員
3年生18人、2年生10人、1年生14人、マネージャー3人
サッカー部スローガン
「PRIDE OF RED」
主な戦績
2020年度
TOYAMA2020 高校スポーツ交流大会 男子サッカー大会【高校総体代替大会】
Bブロック優勝
決勝
富山中部 1-0 富山商業
2019年度
第98回 全国高校サッカー選手権大会 富山県大会 ベスト8
富山県高等学校総合体育大サッカー競技男子の部 準優勝
2018年度
第97回 全国高校サッカー選手権大会 富山県大会 ベスト4
富山県高等学校総合体育大サッカー競技男子の部 ベスト4
2017年度
第96回 全国高校サッカー選手権大会 富山県大会 ベスト8
富山県高等学校総合体育大会サッカー競技男子の部 ベスト8
最後に
人生を設計する上で大切なことは「圧倒的基礎力」と「時間管理」。
「言うは易く行うは難し」ですが、これを実行し、自分自身の思い描いた未来像へ向かって確実に進んでいるのが富山中部高校の皆さんです。
自分の大好きなサッカーを通しても沢山のことを学び、自分の人生に生かす。
ご自身が懸命に頑張ってきたからこそ、生徒を思い、導くことが出来る。
橘監督がサッカー部のメンバーと共に目標達成に向けて進んでいく姿を応援したいと心から思いました。
生涯青春、生涯勉強。限界を決めるのは自分自身。
まだまだ頑張ろうと勇気をもらえたインタビューでした。
橘監督、貴重なお話をありがとうございました!
富山中部高校サッカー部の今後ますますのご活躍をお祈りしています。
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