スポーツニュースを考えるシリーズの第1弾です。
このシリーズは今週のスポーツニュースの中で、ライターの琴線に触れたニュースを深掘りするものです。
今週のニュースピックアップ
高校野球に忍び寄る「二極化」の現実―82点差試合に見える危機
中学生のスポーツが「民営化」された場合、受け皿が足りないとすれば、野球から離れていく少年たちが増え、競技人口の減少に直面するに違いない。その状況は高校野球にもいずれ跳ね返ってくる。野球部に力を入れる学校とそうでない学校との格差がいっそう広がっていくことが予想される。今でさえ、部員不足から3校、4校による連合チームが増えている。合同で練習できる機会も少なく、強豪校との差は開くばかりだ。(nippon.com)
ピックアップポイント
・なぜ「82点差」のような試合が起きるのか?
・中学のスポーツが民営化されると、なぜもっと二極化しそうなのか?
大量得点差の試合は日本だけ?
82点差。これは野球で起きた得点差です。
負けた方のチームにも、勝った方のチームにも、長い長い試合だったに違いありません。
このニュースで思い出すのは、1998年の青森での甲子園予選。このときは122点差でした。試合時間は3時間47分に及んだと言います。
手抜きを許されず、どんなに劣勢でも7回まで(当時の規定ではコールドは7回)こらえなければいけない、きつい試合だったと思います。
3桁得点こそ見たことがないですが、2桁の得点差の試合はサッカーでもあります。特に地方予選に顕著だと思われます。
これは日本特有の現象だと考えることができます。
海外でこのようなことはめったに起きません。
それは「育成の意識」の違いです。
日本にリーグ戦文化が入ってくるもっと前から、海外ではリーグ戦がメインです。リーグ戦のメリットは、同じくらいの実力差のあるチームと試合をするなかで、両方のチームが実力を付けていけること。大量得点差がある試合をした場合、勝ったチームも負けたチームも「なぜ、実力相応の大会に出なかったのか」と保護者から非難されることでしょう。
実力相応のところで戦い、自分はこの上のカテゴリーでもやっていけるな、と思ったら移籍すれば良いのです。リーグ戦はそういう文化を強めます。
日本でも、20年前に比べてジュニアのチーム移動はメジャーになってきましたが、まだまだ終身雇用制の会社のような精神的な縛りがあると思います。
部活民営化が生む二極化の懸念
中学校の部活は、指導員を外部に依頼する。
先生の負担を減らすためです。
そのために地域の総合型スポーツクラブなどに部活の指導を委託する動きが、スポーツ庁が進めている「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革」です。令和3年の10月から運動部活動の地域移行に関する検討会議が始まり、令和5年度以降はどんどん部活動は地域に移行していくことになると思われます。
その結果何が起きるのかを懸念する声の代表的なものが「二極化」です。
いま、部活が民営化されるとして、財源を確保出来ていない自治体では一気にすべての部活を民営化するわけにはいかないでしょう。
学校によって、A中学では野球を、B中学ではサッカーを、C中学ではバスケを、と順番に学校が優先順位を付けて外部委託していく可能性が高いのではないかと思います。
その結果、10校ある地域で外部指導員(プロ)をつけた2校が圧勝する、というシナリオになるかもしれません。すると残りの8校の中学生はどう考えるでしょうか。私は「あの2校には勝てないから、他の部活に入ろうっと」あるいは「運動部は勝てないからつまらないな、文化部へ入ろうっと」という中学生が出てくるのではないかと思います。
「勝てなくても楽しければいいじゃないか」という考え方ももちろんあります。
ただし、それを阻害するのが「全校トーナメントで構成される大会」です。大量得点差で負けて、なおそれを楽しめるのか。そして中学校は移動ができません。「チームを移籍すればいい」という思考が「中学→中学」では通用しないため、「中学→クラブチーム」の選択肢しかなくなります。もしかしたら、この部活動改革の最終的な狙いはそこなのかもしれません。もちろん先生の負担は減るでしょう。それは良いことだとは思います。
中学の部活は安い部費で気軽にスポーツを楽しめる、という利点があります。
まったく無名の中学校から出てくる高校ルーキーも一定数います。
先生の負担をへらしつつ、気軽にスポーツが楽しめる機会と人口を減らさず、アマチュアスポーツがどんどん元気になって行くにはどうしたらいいのかなあ。
ということを考えさせられるニュースでした。
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