愛知県名古屋市のサッカークラブRayoNAGOYA(ラージョ名古屋)では、SDGs達成のための様々な面白い活動に取り組んでいます。
その中の活動の一つでもあるキャンプは、毎年、子どもたちと一緒に自然を感じながら、ユニークな活動を続けています。
なぜ、大自然の中でキャンプをするのか?子どもたちの反応や変化は?など、RayoNAGOYA代表・監督の沢田 聖志さんにお話を伺いました。
(写真提供・引用/沢田 聖志 監督・RayoNAGOYA オフィシャルサイト ZOOM取材・文/choco)
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RayoNAGOYA 沢田 聖志 監督 インタビュー
沢田 聖志 監督 プロフィール
【資格】
JFA公認B級コーチ
JFA公認GK-C級コーチ
JFA公認フットサルC級コーチ
戦術的ピリオダイゼーションスペシャリスト(講師:レイモンド・フェルハイエン(オランダ代表・ロシア代表・韓国代表コーチ))
JFAスポーツマネージャーGrade2
JFA公認キッズリーダーインストラクター
JFA公認3級審判
STAR認定スポーツリズムトレーニングディフューザー
【指導歴】
愛知県立知多翔洋高校
三重県立川越高等学校(インターハイベスト8(2回))
2013年 名古屋市トレセンU14アシスタント
2014年 鈴鹿市トレセンU14コーチングスタッフ
2015年~2018年 三重県トレセンU14コーチングスタッフ(三重県トレセン韓国遠征セカンドチーム監督)
RayoNAGOYAジュニアユース
RayoNAGOYA5・6年クラス
RayoNAGOYA普及クラス
育成選手には、矢澤大夢選手(2017年よりフットサル日本代表)、笠井大輝選手(2019年より名古屋オーシャンズ)、生駒瑠唯(2019年~2020年 Futsal イタリアセリエA2)がいる。
参考サイト:RayoNAGOYA オフィシャルサイト
経験は人としての厚みを持つことに繋がる
― なぜ、サッカーチームなのに大自然の中でキャンプをしようと?
沢田監督
もともと ぼく自身、アウトドアが好きなんです。
我が子とも、よく一緒にキャンプにも行きます。自然の中にのんびりしたり、先日は、子どもと2人で、徳島まで渦潮を見に行って車中泊しました。
自然の中で学ぶことは多く、色々なことに追われている日常生活の中では、経験できないことをたくさん経験できます。
RayoNAGOYAでも設立2年目くらいから、キャンプを行なっています。
もちろん、キャンプのスケジュールの中にサッカーを組み込んで対外試合などをしたこともありましたが、子どもたちの集中のスイッチを押す場所が「サッカーなのか遊びなのか」と、どこか中途半端な感じになってしまいました。
2回目以降は、自然とふれあう機会を増やし、自然の中でこそ学べる経験をすることで、『子どもたちに人としての厚みを持って欲しい』という想いから、「サッカーはやっても遊びのみ」のキャンプを行うようになりました。
このキャンプの前提は「子ども時代に大自然の中でいろいろな経験をする」ということで、あらかじめ用意したことを体験するより、そのままの自然を体験してもらうということがコンセプトなんです。
特別な準備はせず、自然の山の中で自由に遊んだり、川の中にジャブジャブ入って行ったり、自然の生き物を捕ってみたり、拾った大きい石を投げてみたり、気の向くままに遊びまわる野外活動という感じです。
今は春と夏に行っているキャンプですが、極寒の冬にやるのも面白そうだなと思っています(笑)。
キャンプ中の子どもたちは、子どもだけの自由な空間を「俺たちのフィールドだ!」と言わんばかりに遊びまわり、サッカーの時よりも感情が爆発するんですよ。
その感覚が非常に重要だと思っています。
サッカーのプレーの中だけでは、持っている力を最大限に引き出したり、自分を表現することを育てるのも、ある程度の限界があります(笑)。
驚かされる子どもたちの適応能力
沢田監督
キャンプに参加するのは、主に小学校1年生から中学生3年生までの子どもたちです。
去年の参加者の中には年少さんもいました。
みんな非常に元気で、中学生の子たちは小さい子たちを思いやって、いい距離感で面倒を見たりしながら、お互い上手にコミュニケーションを取っています。
普段は一緒に練習をしたことのない、小4の女の子と中3の男の子が一緒に缶蹴りを始めたり、バドミントンを始めたりするんですよ(笑)。
子どもたちの様子を見ていると、年の差も感じさせませんし、むしろ目の前にいる環境に調和していく面白い関わりができているなと思います。
「年下の子とこんなに優しく遊んであげられるんだ。」「こんなにみんなを巻き込むパワーがあるんだ。」と、いつもとは違う姿を見ることができ、感心することばかりです。
いろんな体験を通して、異年齢の子どもたちの中に会話が増え、コミュニケーション能力も格段に上がるなと感じています。
キャンプ中、誰かが声をかけなくても自ら行動したり、グループの中での立ち居振る舞いや役割が自然と出てきたり、リーダーシップや責任感を発揮しはじめるんですよ。
例えば「だいたいこれくらいの時間にご飯を食べようか。」と伝えると、火をつけたい子は遊ぶのも ほどほどに切り上げて、焚き付け用の薪を割りに来たり、野菜を切る子はもっと早くから野菜を切り始めたり、逆に用意をしてから遊びに行く子もいます。
時間の逆算を自然にして行動し、自分たちでルールを決めていくんです。
日常生活では、お父さんお母さんたちの「子どもは言わなければ行動しない」というイメージや思い込みの中で、「宿題やったの??」「明日の準備した⁉」「早く起きなさい!」と、毎日声をかけられながら生活をしていますよね。
それが習慣化して躾になることもあるかと思いますが、それだけでは『お利口にルールを守るだけの子』になってしまい、子どもが本来持っている「言われなくてもできる感覚」を発揮できないと思うんです。
キャンプのような非日常的な場所に行くと、子どもたちって「主体的な力」を自ら磨いて発揮してくれます。
一番変化が見られるのは、キャンプ後すぐのサッカーの練習時です。
子どもたちの間で、新しいコミュニケーションが生まれたり、「俺、何でもやれるぜ!」という自信に満ち溢れた選手が生まれ、自信をもってプレーをしたり、仲間とうまくプレーしたりと成長を感じます。
保護者からも、よく「キャンプから帰ってきて子どもが変わった」という声を耳にします。
特に、小さな頃からキャンプに参加している子どもたちは、周りの声にしっかり耳を傾けて、自分と違う意見を理解する能力が非常に高く、「人としての器が大きいな」と思います。
相手の意見を理解した上で、「自分の考えは」とお互いの考えを尊重する思考が身についています。
コミュニケーション能力も非常に長けていて、それをサッカーでもうまく発揮してくれていますね。
年齢を重ねるごとに自分の殻を破るのは難しくなりますが、年齢が低ければ低いほど、『当たり前』を変えやすく、経験したことを自分の中に取り入れ、適応しやすいんではないかなと思います。
発想力や想像力・思いやりや協力を生むプログラム
沢田監督
雨どいを30cmくらいに切ったものを1人1本ずつ持って、ピンポン球を転がし、レールを組んで、階段の上の目的地まで運んでいくという遊びをしたことがありました。
子どもたち自身、いろいろ工夫しながらゴールまで届けられるように夢中になっていました(笑)。
どう転がしたらピンポン玉を落とさず、順番に雨どいの中を転がして運べるか、発想力や想像力をかき立てられ、イマジネーションが膨らむと同時に、最後まで運べた時の達成感は、きっと普段の生活では、なかなか味わえないことではないでしょうか。
また、昨年の夏には宝剣岳に山登りに行きました。
最初にロープウェーで登っていきましたが、山の上のほうで降りた時には、霧がすごくて雨が降っていたんです。
家族旅行や別のツアーだったら、スケジュールを変え下山の選択肢もあるでしょうが、「一生に一度のチャンスだ!これは登ったほうがいい!」と、ずぶ濡れになりながら、子どもたちと一緒に登りました。
「1・2・1・2!」「グラグラだから、ここ気をつけろ!」と子どもたちはお互いに声を掛け合い、助け合い励ましあいながら山頂を目指していました。
大変な経験でしたが、子どもたちにとっては一生忘れることができない、記憶に深く刻み込まれた出来事だったと思います。
毎回、新しい場所に行って、一生に一度の体験をしたいと思っています。
今年の春に1度、以前行ったところと同じ場所に行ってみたんですが、決まった遊びを決まった子たちがしていて、「これは違うな」と感じたんです。
民泊で学ぶ地域の方とのふれあいキャンプ
― 今年度のキャンプは、どこへ行かれてどんなことをしますか?
沢田監督
今年のキャンプは7月25~27日の3日間、三重県の大紀町に行きます。
「日常から離れるって何だろう。」と考えた時に、今の子どもたちは農業をしたことがない、漁業をしたことはない、海にふれあうこともなかなかない、と思い、調べていったら大紀町に辿りつきました。
協力してくださる大紀町の協議会と連絡を取る中で、1941年の東南海地震の時に6.5mの津波により被害を受けたことを聞きました。
その体験を風化させずに受け継ぐために、東北地方太平洋沖地震により発生した巨大津波を教訓とした津波避難タワーを1998年に作ったそうです。
実際に中に入ることもでき、地震の時に「どこに避難すればいいんだろう」と考える機会になればいいなと思っています。
1日目は、避難時に活躍するスウェーデントーチ作りを体験しますが、これは丸太を切って作るそうです。
翌日はキャンプ場に宿泊するので、キャンプで炊事にも使えるなと思っています。使わなければ家へ持って帰って、いざとなったら使えますね(笑)。
初日は、地元のおじいちゃんおばあちゃんたちの家に民泊させてもらう予定です。
川で魚を捕まえたり、畑で野菜や果物を収穫して、実際にお菓子作りや料理もするようで、きっと特別な体験をさせていただけると思っています。
もしかしたら、はしゃぎすぎて叱られる子もいるかもしれません。でも、おじいちゃんおばあちゃんってみんな厳しくて温かい。そんなひとつひとつの出来事が子どもたちの心に残る大切な思い出になると思っています。
最終日には、筏を作るプログラムもあって、作った筏に乗ってレースをします。
ぼくも、今からワクワクが止まりません。
地域の方々と交流し、自然体験をしたり、文化体験をする中で、子どもたちは、いろんなことを吸収し、今年のキャンプでも大きく成長するだろうなと思っています。
そして、こういう体験は地元の町おこしにも繋がります。
キャンプで体験したことが活かされ、地元にも目を向けて、今度は自分たちの住んでいる名古屋の「いいところ」を大紀町のみなさんにも体験してもらえたらいいなと思っています。
子どもたちが活動を通じて、自分が育った郷土を愛する気持ちを持って、この先も地域に根づく活動を続けていける人に育ってくれると嬉しいですね。
RayoNAGOYA
丸いエンブレムの形は「結束、一丸」
稲妻は、「脳への刺激、一瞬のひらめき、目が眩むほど光るプレー」
青色は「自由、自立、コミュニケーション、自己表現」
文字は「自立の心を尊重」の意味
RayoNAGOY 基本データ
クラブ理念
RayoNAGOY(ラージョナゴヤ)は、サッカーを通じて豊かな人間性を育み、サッカーを愛する多くの人々に囲まれるサッカークラブとなり「笑顔あふれる温かい地域作りに貢献する」事を理念に掲げます。私たちは理念に則った行動を通じて愛するサッカーの価値を高め、他のスポーツに取り組む仲間とともに力を併せて豊かな心と他人を思いやる気持ちのある健全な社会を築いていくよう努力します。
日常生活を私たちの存在により豊かにすることで、地域文化の向上・発展に寄与するクラブの皆さんとって「ちょっとだけ自慢できる」そんなクラブを目指しています。
サッカーを通して出会うはずのない感動・未来・人。非日常を提供するクラブです。
RayoNAGOは、誰にでも気軽に楽しめるスポーツや、年齢・性別・障害を越えたスポーツの発展に寄与したいとの思いから、だれでも参加できる無料の異年齢サッカースクール「Soccerplaypark」を始めました。今後はさらに地域の方々と手をとりあって、大人の方を含めた活動を実施し「生涯サッカーができる環境づくり」「笑顔あふれる温かい地域作り」に努めていきたいと思います。
指導コンセプト
RayoNAGOは日本サッカー協会公認のコーチのもと、『成長へのチャレンジ』をコンセプトに、選手のやる気の土台となる好奇心を刺激し、スポーツをする楽しさ・仲間とプレーする喜びを伝えています。
「一人ひとりが主役」「いつでもどこでも誰とでも」「やって楽しい観て楽しい」。
子どもたちが主役、どまんなかにあります。
指導者や大人が主役ではありません。
『指導者⇔子ども』双方向におけるコミュニケーションを取りながら、子どもたちの力を”引き出す” ”溢れ出す”ことを最優先に考えます。
また、「子どもにとっては社会性が身につくからサッカーをする」のではなく、「サッカーをしていたら社会性が身についていた」というのが私たちの考える図式です。
結果として、ルールや立ち振る舞い、人間関係が自然に学べる環境を提供することを大切にしております。
特に育成年代では、『サッカーを大好きな気持ち』や、『どこでも誰とでもリーダーシップを発揮できる人間性を育てる』ことが、先々のカテゴリーでも活躍出来るベースになると考えます。
参考サイト:RayoNAGOYA オフィシャルサイト
最後に
「毎年、新しい場所に行ってそこでしかできない貴重な体験を子どもたちにさせたい」という言葉に、沢田監督の人柄が詰まっていると感じました。
下調べをして現地を見て、現地の方と連絡を取って計画する。そして子どもたちの安全に気をつけ、無事、家にたどり着くまでがキャンプ。
そんな苦労を微塵も感じさせない、沢田監督のお話しされる姿からは、子どもたちを愛し、子どもたちの成長を願う気持ちが溢れていました。
RayoNAGOYAの、子どもたちの育成を軸にしたユニークな活動から目が離せません。
沢田監督、貴重なお話をありがとうございました。
RayoNAGOYAの益々のご発展、ご活躍をお祈りいたします。
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