福岡市東区で活動するONE SOUL.C 福岡(ワンソウル)は、未就学の子どもたちから社会人まで、それぞれジュニア、ジュニアユース、ユース、トップ、ミドルシニア、シニアのカテゴリーからなるサッカークラブです。
2021年7月に行われた「第28回全国クラブチームサッカー選手権大会福岡県大会」ではトップチームが優勝。またU-18のカテゴリーチームは、12/26~12/29にJ-GREEN堺で開催される「日本クラブユースU-18TOWN CLUB CUP全国大会(タウンクラブカップ)2021」への出場を決めています。
今回は、子どもたちや保護者から親しみを込めて「ルパンリーダー」と呼ばれる中田雄一朗監督に、ONE SOUL.C 福岡(ワンソウル)独自の育成や目指すところをお伺いしました。
(写真提供/中田監督 電話取材/文 choco)
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ONE SOUL.C 福岡(ワンソウル)
中田雄一朗監督
一般社団法人 総合型地域スポーツクラブ代表理事
ONE SOUL.C福岡監督
国見高校出身
JFA指導者ライセンスB級
JFAクラブマネージャー
縁のある子ども達と共に成長していきたい!一貫指導を続ける理由
—日本クラブユースTOWN CLUB CUP全国大会、3年連続3回目のご出場おめでとうございます!2年前にはベスト4に輝かれた大会ですが、意気込みなど聞かせてください。
中田監督(以下、ルパンリーダー)
ありがとうございます!
全国大会は誰もが経験できることではないと思っています。試合に出場すること、しかも全国大会を経験することで、選手たち個々が成長しチームも成長します。
今回の大会で2年前の成績を上回ることや優勝することも大事かもしれませんが、大会を通して選手一人一人に気づきが生まれること、そこから生まれる何かしらの答えが、チーム力の向上にも繋がると思っています。
将来的にはワンソウルをJリーグのチームに成長させたいと思っているんです。
—すごいですね!選手をJリーグのチームに送り出すのではなく、チームをJリーグに!そこにある監督の思いをお聞かせください。そしてワンソウルでは、どのような育成をされているのか気になります。教えていただけませんか?
ルパンリーダー
これまで指導させていただいて10名程がジュニアユースやユースからJクラブアカデミーに入りましたが、プロになれた選手はたったの1名のみです。
プロへの扉はとても厳しい上に、進む道を誤ると力を発揮する場が十分に与えられずに燃え尽きてしまう場合も少なくありません。もちろん激しい競争があるのは当たり前ですが、早熟の選手に対して遅咲きの選手が育成時期にまともに勝負しても、評価を得るのは難しいものです。
フィジカル的にもメンタル的にも本当の勝負ができる時期までに、最高の下準備をサポート出来たらと思い、日々取り組んでいます。
例えば、人数に合わせて複数チームを公式戦に登録したり、芝生と土のグラウンド両方を毎週定期的に使用できるようにしていますし、その気になれば平日は毎日練習できる環境を整えています。
そして、社会人になっても高みを目指せる一貫指導体制を作ることが出来たので、小学生から社会人まで長いスパンで選手をじっくり育てることができる。しかも長い時間をかけることで、選手それぞれの成長スピードに合わせて導くことができます。個々の選手に目が行き届き一人一人を大切に育てることができること、それが一貫指導のいいところだと思っています。
正直、小さい頃から関わってきた大切なかわいい子たちを他のチームに出したくないですよ(笑)。これは個人的な想いなんですが「その子のピークを観たい」という気持ちがあります。どんな花を咲かせるのか、どんな巨木になっていくのか、その道のりを側で見守りながら共に歩んでいけるのが一貫指導の最大の魅力なのかも知れませんね。
おかげさまで、社会人までワンソウルでサッカーを続ける選手も増えてきました。
また、結果よりも全力でプレーすることの大切さを選手たちには伝えています。全力しかも本気でやることが楽しさに繋がるし、本気でやったことによる成功や失敗には大きな価値があると思うんです。そのためにも、みんなが公式戦で経験を積むことができるよう、リーグ戦には複数チームを登録していて、どのカテゴリーの子たちにも試合出場の機会を与え、経験することで力を伸ばしてほしいと思っています。
以前、高校生がリーグ戦に出場した時には、試合中に足がつった選手がいて…一人選手が外に出ると人が足りなくて、フィールダーは9人という状態で戦ったりしたこともありますが(笑)、それでも試合を通して様々なことを経験し、選手たちは心身ともに成長しています。
何でも学びに変えることの楽しさと経験することの大切さ
—経験するといえば、荒地をスタッフ、選手、保護者の皆さんで開墾されたそうですね。開墾した理由は何だったのでしょうか?
ルパンリーダー
一番の大きな理由は食事の大切さを学ぶことです。人間が生きていくために、食べることって大事なことだと思いませんか?
昨今、コンビニに行けばすぐに何でも買える。おにぎり、お弁当など手軽に手に入れることができるから、日常そういうものを食べることが普通になっている子どもたちもたくさんいます。その上、食品添加物まみれの食べ物や農薬で消毒されたものを口にすることも多い時代です。
また、今の子供たちは、実際に農作物がどう育つのか、なかなか身近に感じることができない環境にいます。だから、種を撒き農作物を作る楽しさや育てる喜びも味わわせたいなと。野菜や果物はどういう育ち方をするのか、実際に見て触れて自然を体験することで、気づきを与えられるような場所にしたいと思っています。
もう一つの理由は、開墾作業を通して自然に触れ、本来、人としてあるべき姿を感覚として取り戻せる場所にしたいと思っています。
「学校」って英語で「school」って言いますよね。その語源を知ってますか?ギリシャ語で「暇」を意味する「 schole」(スコーレ)が語源らしいんです。うちのコミュニケーショントレーナーに教えてもらいました。その「暇」(スコーレ)こそが学びの時間であり、人生を豊かにする時間に繋がると思うんですよね。
でも実際には、詰込み型の教育環境に苦しみ、心身ともに疲れてしまっている子ども達が少なくないという現実があります。
現代社会に生きる人たちは生きていくために必死に頑張ってる。
もっと自由な発想を持って、好きなことして生きてもいいんじゃないかと思っています。
よく子どもたちに話すんですよ。「鳥は自由に空を飛んでいて必要な時に地上に降りて餌を取り、また空を自由に飛び回る。何で人間はやらなければいけないことに縛られてるんだろう?自由じゃダメなのかな。」って(笑)。そんな自由で心地よい時間を過ごせる場所があってもいいのかなと。
さらに今は、コロナ禍で心が疲弊している人も沢山いると聞きます。制限も増えてきていて、我慢したり頑張り過ぎている人が多いと感じます。
そういった意味では、今後も開墾した土地で自然に触れる機会を作り、頑張りすぎた心を元の位置に戻す場所になったらいいなと考えています。
—とても魅力的な場所ですね!開墾された土地の今の段階と、これからの方向性をお伺いしたいです。
ルパンリーダー
巨木が生い茂っていた荒れた土地だったのですが、保護者や子供たちの手を借り、最終的には重機を使って切り開き、今は畑ができた状態です。そこを「ONE FARM」と名付けました。本当は、今の段階で種まきをしたいのですが、冬なのでちょっとタイミングや時期を見て、今後は農作物を育てていきたいと思っています。あとは木ですね。果物や実のなる木を育てて果樹園のようにし、収穫を楽しむことができる土地にしたい。
バリ島に「グリーンスクール」という、人にも環境にも優しいといわれる学校があります。電力は太陽光や水力発電といった自給の自然エネルギー、竹で作った校舎が立ち、トイレは地球に優しいコンポストトイレ。ここを目指しているというわけではありませんが、できる範囲で取り入れたいので、とりあえず名称を「グリーンスコーレ」にしてみました。
まだ水道もないので、既に水を引く計画は進んでいます(笑)。土を掘って自分たちで水道管を埋めて地下に水道管を這わせる。水を引くなんて経験したことないでしょう?あえて、経験したことないことをみんなで一緒に経験して学びたい。自分自身まだまだ知らないことや分からないことがいっぱいあるので、経験して成長していきたいです。
幸いなことにチームの保護者の方が仕事でされていたりと協力してくださる方が多く、たくさんのことを教えてくれます。自分の周りに協力者がいてくれる環境に本当に感謝しています。
まだまだやりたいことは山ほどあります。自分たちで木を組み合わせて小屋を一から作ったり、傾斜面を利用して自然に体を鍛えられるようなアスレチックも作りたいですね。
焚火をして、焼き芋を皆で食べたりして。
ちょうど目の前には海もあるすごくいい環境なので、魚を釣ってきて自分たちで捌いたり焼いて食べたり…夢は広がりますね(笑)。
「ONE FARM」で伸び伸びと過ごす子どもたちには笑顔があふれ、ゆっくりのんびりと過ごす時間を作ることができたら最高です!
あとは、ワンソウルでやっている「対話の授業」も、ゆくゆくは「ONE FARM」の自然の中でやるつもりです。
周りの人のことを理解し、きちんと考える人に育って欲しい
—「対話の授業」はチームの選手向けにされているのですか?
ルパンリーダー
その道ではかなり有名な方で、全国を忙しく飛び回って活躍していらっしゃる山口覚さんにワンソウルのコミュニケーショントレーナーとして加入していただき、ワンソウルの選手や保護者向けに毎月「対話の授業」をやっています。
山口さんと話したときに、クラブの目指している方向性が明確になったこと、新しい提案や気づきをいただける方だったのでお願いしました。
目的としては、コミュニケーション力を上げることです。サッカーのプレーって連携が大事でしょ。選手同士、今、自分はどうしたいのか、相手にどうして欲しいのかを伝える、更には周りの人は自分にどうして欲しいと思っているのかを感じ取れる、瞬時にそんなコミュニケーションをすることがとても重要になってくる。
普段の生活でも同じです。親子でも学校の友達でも、もっと言えば社会に出てからも周りの人に伝えることや周囲の気持ちをくみ取ることって大事ですよね。社会に出てからも役立つコミュニケーション力を学ぶことで、選手たちの考える力を引き出すことができたらと思っていたので取り入れたんです。
—確かに、チームプレーでも親子関係でも、社会に出てからもコミュニケーションって大切なことですね。どのような感じで「対話の授業」をされていますか?
ルパンリーダー
月に1度、対面式で「対話の授業」をやっていましたが、施設が確保できない場合はZOOMを使ってやっています。
ZOOMだと気軽に家でも参加することができるので、対象学年も増やすことができるのでプラス面もありますが、本来ならば対面式でやりたいですね。
「ONE FARM」という開放的な自然の中でやれたらいいなと思っています。
これまでも「対話の授業」の効果は出ているんですよ!
2年前、ちょうどこの授業を取り入れ始めた頃「日本クラブユースU-18TOWN CLUB CUP全国大会」でベスト4を勝ち取りました。
また、この対話の授業を受けたOBが「就活をしている時に、授業で学んだことが面接にかなり役立った!」と後輩達に熱く語ってくれました(笑)。
これ、すごいことだと思います。ちゃんと学んだことを吸収したんだなと。
サッカーは一人ではできないスポーツです。
選手たちには、一方的に自分のことを伝えるだけでなく、周囲の声を聞く耳を持って欲しい。
「対話の授業」を受けることによって、人それぞれ考え方が異なることを学び、答えが一つではないことにも気づかされます。
そうすると周りの人の気持ちも考えられる人に成長し、子どもたちの持てる力を最大限に引き出してくれるのです。
人生も同じで、対話することで周囲の人を理解して人間関係を良くすることができる。
更には心も豊かになり、その先には豊かな人生が広がっていくと信じています。
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ONE SOUL.C 福岡(ワンソウル)
ONE SOUL SPIRIT
わたしの前を歩くな
わたしが従うとは限らない
わたしの後ろを歩くな
わたしが導くとは限らない
わたしと共に歩け
わたしたちはひとつなのだから
「WE ARE ALL ONE」
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最後に
「高校時代は、強豪校で厳しい環境の中サッカーをやっていました。指導者になって真逆の環境も経験しました。今は熱湯でもなく冷水でもなくぬるま湯の環境を作っています。あんまり熱すぎると早々に燃え尽き症候群になる子もいる。ぬるま湯って冷たくはならないんですよ(笑)いつも温かい。時期によっては温度調整もしますが、子ども達にもいつまでも冷めない、そんな気持ちをいつまでも持ち続けて欲しいと思ってます。」と笑いながら話してくださった中田監督。
ご自身も国見高校でサッカー経験があり、これまでの体験を通し独自のサッカー感を持たれ、自由な発想と人間力の必要性を感じて生きてこられたことが、ひしひしと伝わってきました。
なぜ、ルパンリーダーと呼ばれているのか伺った時には「昔、YMCAというところで子どもたちにサッカーを教えていた時に、坊主でもみあげが長かったんです。教え子たちが、その容姿を見て『ルパンに似てない!?』と(笑)。その時、子供たちにつけてもらった呼び名が『ルパン』だったんです。当時の教え子がワンソウルについて来てくれてコーチをしているんですが、その名残で今も『ルパンリーダー』と呼ばれています。」と答えてくださいました。
子どもたちと真剣に向かい合う愛情深い中田監督の周りには、監督を慕い信頼を寄せて集まる子どもたちや協力的な保護者の姿が思い浮かび、ワンソウルのみなさんの関係性の良さを感じました。
ブレない信念を持つ、令和の「ルパン」のお話は、ライターであるわたしの心も盗んでいくほど魅力的なものでした。
これからも沢山の人々の心を魅了し、かけがえのないお宝を手にされるに違いありません。
お忙しい中、心弾むワクワクするお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
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