鳥取県境港市を拠点に活動するFCアミーゴはキッズ、ジュニア、ジュニアユースの選手たちが活動するサッカークラブです。
雨や雪が多い境港市で選手たちの練習日を確保するため、FCアミーゴは独自の工夫をしています。
FCアミーゴの皆さんが大切にされる「スパシーヴァ」という場所は、一体どのようにして作られ、どんな物語を紡いでいるのでしょうか。
FCアミーゴ代表・監督の金坂 博さんにお話を伺いました。
zoom取材/文 CRANE
画像提供:FCアミーゴ代表・監督 金坂 博氏
お話を聞いた人
FCアミーゴ代表・監督 金坂 博さん
【サッカー経歴】
小学校 福米東SC (FW)
中学校 福原中学校 (MF)
高 校 米子工業高等学校 (MF) 3回全国大会に出場(インターハイ2回、選手権1回)
【資格】
JFA公認サッカーC級コーチ
JFA公認サッカー3級審判員
JFA公認フットサル4級審判員
参照:FCアミーゴ公式HP
秘密基地 スパシーヴァの誕生
ーーーFCアミーゴには専用の練習場があると伺っています。どんな施設なのでしょうか?
金坂
私たちFCアミーゴのクラブハウスは、コンクリート製品工場の事務所として使われていた建物をお借りしているのですが、その横に建っていた廃工場を利用して作ったのが専用練習場の「スパシーヴァ」なんです。
工場跡地にある事務所をクラブハウスとして使い始めたころから「隣の廃工場を何かに利用できないかな?」と思ってはいたんです。ですが、お借りするには別途費用が掛かるわけで…。
ただただ眺めるだけという状態が3年ほど続きました。
借りることを決心したのは、私たちの活動拠点となる鳥取県境港市の降水量の多さです。
他の地域に比べ、晴れることも少ない地域なので、練習ができないということが度々ありました。
市の体育館を借りるなどして何とか対応してきたのですが、抽選なので毎回確実に借りられるわけではありません。
冬になると雪も多く、グラウンドが全てクローズされてしまいます。
選手たちのために、なんとか練習時間を確保したいと思い、天候の影響をあまり受けない練習場所が欲しいと思うようになったんです。
部員も年々増えてきていたので、ミーティングをするにしても、クラブハウスでは手狭になったということも理由になり、大家さんに交渉して廃工場を借りることにしました。
実際に使えるようにするまでの改築費、材料費は、OB会からの寄付金が溜まっていたのでそこから使わせて頂きました。
壁に板を貼りつけたり、天井にネットを張るなどの自分たちの手では出来ない部分には業者さんに入って頂いて、それ以外の自分たちで出来ることは全て自分たちで作り上げることにしたんです。
まず、転倒しても危なくないようにゴムマットをコンクリートの床一面に貼り付ける。その上にテープを貼ってコートを作る。それが練習場としての最初の形でした。
しかし、黒いゴムマットは子どもたちの練習着に色移りしてしまって…洗濯しても落ちないし、ボールも真っ黒になってしまうんです。
このままでは保護者の方にもご迷惑が掛かると思い、ゴムマットの上から人工芝を貼ることにしました。
ガイナーレさんの室内練習場にもう使わなくなった古い人工芝が山のようにあるというお話を教えてもらって。知人を通してガイナーレさんにお願いし、無料で譲って頂けることになったんです。
大きいトラックに積んで持ち帰って、使えるところだけを畳1畳分くらいずつに切り取ってパッチワークのように1枚ずつゴムマットの上に貼りつけていきました。
水道のパイプを再利用したり、木材で手作りしてゴールも準備したんですよ。
費用を出来るだけ抑えるためにも、使えるものは全て使って、ひとつずつ手作りして行きました。
ーーーすごいお話ですね!金坂監督の他、作業にはどんな方々が関わられたのですか?
金坂
FCアミーゴの指導者はもちろん、保護者の方にも声をかけさせて頂いたんです。
すると「こういうのは得意分野です」という方が多くいて、子どもたちも連れて手伝いに来てくれたんです。
子どもたちもお父さん、お母さんと一緒にセメントを塗ったり、人工芝を敷いたり、積極的に手伝ってくれました。
そうやって皆で2、3カ月かけて作業して、何とか使えるようにしたんです。
手作りの場所は愛着もひとしおで…大切に使っていこうと思えましたね。
まるで秘密基地のような雰囲気がある「ここは自分たちの特別な場所だ」と思える空間になりました。
FCアミーゴは、今は毎年ブラジルに遠征に行くのですが、当時はロシア遠征に行っていたんです。
なので、ロシア語でありがとうという意味のある「スパシーヴァ」と名付けました。
スパシーヴァは2、3カ月に1回はメンテナンスが必要になるので、今でも子どもたちに定期的に手伝ってもらって、練習環境を整えています。
スパシーヴァでの遊びと学び
ーーースパシーヴァが出来たことで、クラブはどう変わりましたか?
金坂
まず「自分たちの場所は自分たちで管理する」という責任感が子どもたちに芽生えたのではないかと思います。
前面がガバっと開いている構造なので、風が強い日は枯れ葉などが舞い込んでくるし、雪が降ると吹き込んで人工芝一面が白くなる。
掃除をして練習出来る環境を整えるということが常に必要になってくるのですが、それが子どもたちにとっての役割になるんです。
掃除やメンテナンスの手伝いを通して、子どもたちが自発的に気が付いて動くということがだんだんと出来るようになっているのを感じます。
練習場所が常にひとつは確保されている状態なので、クラブとして心の余裕も持てるようになりました。
クラブの人数的に、市の体育館などの公共施設も借りなければならない状況に変わりはないのですが、抽選に外れてしまうこともあるんです。そうなると練習ができなくなってしまう。
スパシーヴァがあるおかげで、一か所は練習場所が確保される。この安心感は大きいです。
専用施設としていつでも自由に使えることで、思わぬ良い効果を生むこともあります。
週に1度、私たち指導者はスパシーヴァでフットサルをするんですが、これが中学生選手にとって良いリフレッシュの場になったりするんです。
以前「ちょっと行き詰っているな」と感じさせるジュニアユースの選手を私たちのフットサルに誘ったことがありました。
サッカー強豪校への進学を考えている選手で、将来やプレーに関して不安を感じているようだったので「遊びにおいで」と声をかけたんです。
サッカーは真面目にコツコツ練習すればすべて上手く行くというものでもありません。
普段の練習とは違った、遊びのサッカーをやって気持ちを切り替えることも時には必要だと思うんです。
そうすることで、発想力が刺激されて思い切ったプレーが出来ることも多いんですよね。
来てくれた中学生は「久しぶりに楽しいサッカーができた」といきいきとした笑顔を見せてくれて。
次の練習でのプレーにも変化が見られたんです。
スパシ-ヴァがあることで、いつでも気軽に参加できてリフレッシュできる場を選手たちに提供できる。
そういう良さもあるのだなと感じています。
観測史上最大の大雨に襲われる
ーーー「スパシーヴァ」は7月に鳥取を襲った記録的な大雨※で大きな被害にあったそうですね。修繕など、とても大変だったのではないでしょうか。
金坂
あの大雨で大打撃を受けてしまい、本当に大変でした。
練習場に雨水が大量に流れ込み、あっという間に浸水してしまったんです。
人工芝の下に敷いているゴムマット一枚一枚が水を吸い込んで、お餅のように膨らんでしまったんですよ。
ぼこぼこして、とてもじゃないけど練習できないという状態になってしまいました。
再び練習できるようにするため、人工芝を1枚ずつ剥がし、中のゴムマットの膨らんだところに切り目を入れて、膨れたところを平らにならす作業をしました。
ただ十字に切り込みを入れるだけでは切ったところが重なりあってしまうので、2センチ幅くらいで十字に切り取って切込みと切り込みがピタッと合うようにつなぎ合わせるんです。
それからまたその上にはがした人工芝を貼り付ける作業をして。
壁と地面の隙間から水が入り込んできてしまうので、その隙間はセメントで埋めて補強するということもしました。
鳥取県西部地区でのコロナ感染の増加に伴い、クラブの活動も自粛していたので、その期間を補修作業にあてたのですが、我々指導者の他にも沢山の保護者の方や選手たちが手伝いに来てくれて。
皆さんのご協力、スパシーヴァを大切に思ってくださる気持ちに感謝しかありません。
本当にありがたかったです。
今回の被害はとてもショックを受けましたが、スパシーヴァの今後について考えるきっかけにもなりました。
皆で作り上げた、この大切な場所をこれからもずっと守っていくために、何が必要でどんなことをするべきか。
スパシーヴァの未来について考えていかなくては。そう思うようになりました。
※2021年7月12日、鳥取県境港市は午前8時前に1時間80.5mmの観測史上最大の大雨を記録。午後2時20分までの12時間降水量は204.5mmに達し、3地区198世帯に避難指示が出た。(参照:朝日新聞DIGITAL)
スパシーヴァに描く未来予想図
ーーー皆さんのお力で、再び練習できるようになったスパシーヴァですが、今後さらに補強していくということもお考えなのでしょうか?
金坂
スパシーヴァが出来てから、もう7年になります。
大分使い込んでいるため、古くなってきて、芝が抜け落ちてきてしまっているんです。
雨や雪が吹き込むとつるつる滑って危険だと思うことも増えてきました。
新しい人工芝を買って、張り替えたり、がばっと開いている入り口部分に雨、雪を避けられる設備を付けるということも考えています。
フットサルコートに沿う形で、5m幅くらいの人工芝を敷いて、ドリブル練習ができたり、FCアミーゴで取り入れているリズムトレーニングが出来るスペースも作りたいです。
小さい兄弟姉妹が一緒に来ている場合、遊ぶことができるスペースにもなるかなと思うんですよ。
選手たちが荷物を置ける棚も作りたいですね。
古くなったゴールを再利用して棚に出来ないかなと考えています。
業者さんに入ってもらうのは、自分たちでは出来ない場所だけで良いと今は考えています。
出来るだけ、自分たちで作っていきたいなと。
子どもたちにとっての体験のチャンスになりますし、自分たちで作ったものはやっぱり愛着が全然違いますから。
ーーー将来的に、スパシーヴァをどんな場所にしていきたいですか?
金坂
将来的には、チーム以外の方々にも使って頂けるように解放出来たら良いなと思っています。
今はひとつ社会人チームにお貸ししているのですが、利用してもらうチームを増やしたり、フットサルイベントなど、そういうこともしていきたいですね。
周りにちょっとした椅子やテーブルを並べて、保護者の方やイベントに参加してくれた方々が談笑できる場所も作りたいです。
地元の人たちが集まる憩いの場というか、スパシーヴァに来るのが毎回楽しみだと思ってもらえるスペースにしていきたいなと。
スパシーヴァがFCアミーゴの部員たちにとっての思い出の場所になり、なおかつ地元の皆さんが元気になれる場所になるように、少しずつ手を加えながら形にして行けたら良いなと思っています。
最後に
「スパシーヴァでの練習は子どもたちの個人スキルの向上にも一役買っているんです。
狭い練習場では密集状態が多くなるので、状況を打開しようと自らボールを運んだり、ダイレクトプレーを選択することが増えるんですよ。」
スパシーヴァでの練習についてとても楽しそうにお話される金坂監督からは、FCアミーゴの選手たちへの愛情と大きなサッカー愛を感じました。
皆さんの手で作り上げ、大切に守られてきたスパシーヴァ。
今後ますます素敵な場所になっていくことと思います。
金坂監督、貴重なお話をありがとうございました。
FCアミーゴとスパシーヴァのますますのご発展をお祈りしています。
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